米商品先物取引委員会(CFTC)の委員欠員が長期化し、暗号資産市場の制度整備を担う「CLARITY法案」の審議に影を落としている。法案はデジタル商品(コモディティ)の現物市場監督をCFTCに担わせる内容だが、足元のCFTCは委員1人体制に陥っており、監督体制の実効性を不安視する声が強まっている。
10日付の報道によると、CLARITY法案は暗号資産を含むデジタル商品の現物市場に対する監督権限をCFTCに付与するのが柱だ。ただ、定員5人の委員のうち、現在残っているのは共和党のマイケル・セリグ委員だけで、法案成立後の運用能力を疑問視する見方が出ている。
こうしたなか、CFTCの欠員を巡ってホワイトハウスと上院民主党の対立も表面化した。ホワイトハウスは、ジョン・スーン上院共和党院内総務とチャック・シューマー上院民主党院内総務に宛てた書簡で、民主党がトランプ政権の民間出身候補の人事を妨げていると主張した。
これに対し政権側は、証券取引委員会(SEC)とCFTCの民主党枠候補の推薦を民主党側に求めたものの、回答が得られていないと反論した。一方、民主党は、トランプ政権がSECやCFTCなど独立規制機関の人事を意図的に遅らせていると批判している。
セリグ委員は最近、Fox Businessのインタビューで「議会が動かなければ、暗号資産のルールを規制当局がすべて書くことになりかねない」と述べた。立法が遅れれば、議会制定法ではなく、規制当局の解釈が市場の基準になる可能性があるという認識を示した格好だ。
人事を巡る混乱も続いている。ホワイトハウスによると、トランプ政権は昨年9月、ブライアン・クインテンズのCFTC委員長指名を撤回し、同年10月にセリグを新たな候補として指名した。
さらに、連邦最高裁がトランプ大統領による独立機関トップの解任権限を広く認めた最近の判決も、論争に拍車をかけた。ホワイトハウスはこの判決を根拠に、民主党の批判は説得力を欠くとしている。
市場では、今回の欠員問題は単なる政治対立にとどまらず、規制の安定性そのものを揺るがしかねないとの見方が出ている。CFTCの人員規模は約543人で、約4200人のSECに比べ大幅に小さい。
加えて、人員も最近約21%減ったとされる。24時間稼働するグローバルな暗号資産市場を、実質的に委員1人で監督する現体制が持続可能なのかを疑問視する声は少なくない。
下院農業委員会のグレン・トンプソン議員とアンジー・クレイグ議員は5月、トランプ大統領に送った書簡で、委員1人の下で策定されたルールは法的紛争にさらされやすくなる可能性があると指摘した。
両議員は、5人体制で策定されたルールのほうが長期的に維持される可能性が高いとしたうえで、グローバル企業は事業展開先を選ぶ際、規制の安定性と予見可能性を重視すると強調した。
上院では、立法日程を巡る危機感も強まっている。シンシア・ルミス上院議員は今週、X(旧Twitter)への投稿で、今会期が2030年以前にデジタル資産関連の実質的な法案を成立させる最後の機会になり得るとの認識を示した。
ルミス議員は、いま法案を処理できなければ、他国がデジタル資産ルールを主導し、米国は今後10年にわたってそれを追いかける立場になりかねないと警告した。
もっとも、CLARITY法案にはなお争点が残る。上院は14日に再招集され、法案処理を続ける可能性が高いが、一部条項が最終局面の変数になるとみられている。
主な論点は、非カストディアル型ブロックチェーン開発者の保護条項に加え、開発者や一部サービス提供者を資金移動業規制の対象外とする604条、さらにCoinbaseなどの取引所にステーブルコイン保有報酬を認めるかどうかだ。なかでも604条については、マネーロンダリング対策を弱めるとの批判が出ている。
ステーブルコインの報酬条項は、金融業界の利害とも直結する。Standard Charteredは、ステーブルコインの利払い機能によって、2028年までに伝統的な銀行預金から1兆ドル(約150兆円)が流出する可能性があると試算した。
米国銀行協会が関連する折衷案に反対してきた背景にも、こうした懸念があると受け止められている。
市場の反応は限られた。暗号資産全体の時価総額は当日、約1%上昇し、2兆2000億ドル(約330兆円)に接近した。ビットコインは原油相場の安定を背景に、6万3773ドル(約957万円)前後で推移した。
業界では、上院が14日以降にCLARITY法案をどう扱うかに加え、トランプ大統領がCFTCの欠員を実際に埋めるかどうかが、今後の米国の暗号資産規制を左右する重要なポイントになるとの見方が広がっている。