欧州連合(EU)は7日、域内で販売する全ての新車に、運転者の注意散漫を検知する「先進運転者注意散漫警告システム(ADDW)」の搭載を義務付けた。居眠り運転や脇見運転による事故の抑止が狙いだが、車内カメラが扱う映像や視線データの管理を巡っては、プライバシー面の懸念も出ている。
ADDWは、ステアリングホイールやダッシュボード付近に設置した赤外線カメラで、運転者の顔や視線の向きをリアルタイムで検知する仕組みだ。スマートフォンの確認や後部座席への視線移動などで、一定時間以上前方から目を離すと、警告灯や警告音、振動で注意を促す。
システムは時速20km以上で自動的に作動する。視線が道路から外れた状態が続くと、高速走行時は約3.5秒、低速時は約6秒で警告が出る。EUはこの制度により、2038年までに2万5000人超の命を救えると見込んでいる。
一方で、実際の使い勝手を巡っては評価が分かれている。ベルギーの自動車メディアGocar.beはテストの結果、通常の運転でも警告が頻繁に作動したと報告した。空いた高速道路で短時間周囲に目を向けたり、車載オーディオを操作したりする場面でも警告音が鳴ったという。
利用者の声でも同様の指摘が出ている。Ford Pumaを試乗した運転者は、走行開始から10分で休憩を促す通知が表示され、その後もより強い警告音や警告灯が繰り返し作動したとしている。機能をオフにしても、再始動後には自動で有効になる点を不便とみる声もある。
焦点の一つは個人情報保護だ。EUの規則では、ADDWは生体認証を目的とした仕組みではなく、データ処理を車内で完結させる「クローズドループ(closed-loop)」方式で運用しなければならない。運転者の映像や視線データを外部サーバーや自動車メーカーに送信しないことが前提となる。
ただ、実際のデータ処理の実態はなお見えにくい。映像がどのように分析されるのか、どの程度保存され、いつ削除されるのかを検証する具体的な仕組みが十分ではないとの指摘がある。EUの一般安全規則は、目的に必要のないデータ保存を禁じているが、ADDWでいう「必要な範囲」がどこまでなのかは明確ではない。
こうした懸念は、過去の事例とも重なる。2024年には、GMやHonda、Hyundai、Kiaなど一部の自動車メーカーが運転データをデータブローカーと共有し、保険会社に提供していたことが判明し、問題となった。運転習慣が保険料の算定に使われ、一部の消費者で保険料が引き上げられたケースもあった。
映像データの流出リスクも無視できない。2023年のロイター調査では、Teslaの元従業員の一部が顧客車両のカメラ映像を社内メッセンジャーで共有していたことが明らかになり、車載カメラのデータ管理体制が問われた。
EUでは一般データ保護規則(GDPR)が適用され、顔や視線に関する情報も個人情報として保護対象になる。メーカーには必要最小限の情報のみを収集し、利用目的の達成後は削除することが求められるが、ADDWがこうした原則をどこまで順守しているかは十分に検証されていない。
注意散漫の抑制によって事故を減らすという政策目的には一定の理解がある一方、常時作動する車内監視が新たな個人情報論争を招く可能性もある。今後は、データ保存の有無や保管期間、削除方法、外部送信の有無を検証する独立した監督体制の整備が課題になりそうだ。