顔認証決済を軸にしたオフライン決済端末の競争が熱を帯びている。6月の会合を機に顔認証決済への注目が高まる中、TossとNaver Payは端末導入と加盟店開拓を急ぎ、主導権争いを本格化させている。
業界によると、6月5日の「三者会合」以降、顔認証決済への関心は急速に高まった。当時、イ・ヘジン Naver取締役会議長は「Npay Connect」を通じて、顔認証決済サービス「FaceSign」で決済した。
その後、Naver Payの週間新規顔登録者数は前週比193%増加した。同期間の決済件数は121%増、決済金額は204%増だった。
これまで簡便決済の競争は、主にモバイルアプリ内で展開されてきた。利用者数や送金の利便性、ポイント還元、提携割引などが主な競争軸だった。
ただ、顔認証決済は事情が異なる。利用者が登録しても、店舗側に対応端末がなければ実際の利用にはつながりにくい。このため両社は、利用者の拡大と並行して、対応端末を備えた加盟店網の整備を進めている。
決済端末は単なる支払い手段ではない。オフライン店舗とプラットフォームを結ぶ接点となり、決済だけでなく、レビュー、クーポン、ポイント、注文、店舗管理機能などの連携基盤にもなり得る。
プラットフォーム事業者にとって端末の普及は、オフライン市場を取り込む重要な入口だ。加盟店が特定端末を導入すれば、決済データに加え、マーケティング機能や顧客管理機能も連動する。単に顔認証決済を使ってもらうだけでなく、店舗運営全体との結び付きを強められるからだ。
業界関係者は「顔認証決済の普及には、実際に使える加盟店の確保が不可欠だ。立ち上がり段階では利用者数だけでなく、端末と加盟店インフラをどれだけ早く広げられるかが競争力になる」と話す。
Naver Payはオフライン統合端末「Npay Connect」を前面に打ち出し、小規模事業者とフランチャイズの双方を取り込む構えだ。現金、カード、QR、簡便決済、NFCに加え、顔認証決済「FaceSign」にも対応する。
昨年11月の発売から7カ月で、全国の加盟店数は10万店を突破した。直近3カ月の新規導入加盟店は5万2000店に達した。
同社戦略の中核にあるのは、決済と店舗マーケティング機能の一体化だ。決済直後に顧客がNaverレビューを投稿できる機能を提供するほか、注文やクーポンなどNaverプレイス基盤のサービスとも連携する。決済端末を、Naverのエコシステムにつながる店舗運営チャネルとして活用する狙いだ。
マーケティング面の効果も訴求する。Naver Payによると、端末導入後に業種別でレビュー数上位5加盟店を分析したところ、レビュー数は飲食店で230%、美容室で157%、カフェ・ベーカリーで132%増加した。レビューや再来店管理の重要性が高い業種ほど効果を見込みやすいとしている。
小規模事業者向けの施策も進める。Naver Payは7月1日、中小小規模事業者希望財団と業務協約を締結し、小規模店舗の老朽化した決済端末の更新を支援する事業を推進する方針を示した。
フランチャイズや各機関との提携も拡大する。下半期には全国のParis Baguetteを皮切りに、Baskin Robbins、Dunkin、CJ Foodville、The Venti、Isaac Toast、Shabu All Day、Yogurt World、Vogue Hair、Geo Hair、T Stationへと導入先を広げる計画だ。
一方のTossは、顔認証決済サービス「FacePay」と自社端末「Toss Front」を基盤に、利用可能店舗の拡大を進めている。今年1月に登録者数200万人突破を公表したのに続き、先月には600万人を超えたと発表した。短期間で積み上げた会員基盤を背景に、オフラインでの決済体験を広げる戦略だ。
外食、スポーツ、文化施設など、利用者が日常的に訪れる場所を中心に導入先を増やしている。顔認証決済はなお新しい決済手段であるため、繰り返し利用できる接点を増やすことが重要だと判断しているとみられる。
TossはNonghyup Mokwoo-chon外食事業団とも連携し、Tto-rae-o-rae、Wellbeing Village、Miso wa Don、M Cafeなどに「FacePay」を順次導入する。両社は共同決済プロモーションやマーケティング活動も進める予定だ。
スポーツの現場を活用した体験型マーケティングも展開した。Tossは先月30日、大田のHanwha Life Ballparkでブランドデーとして施策を実施し、球場内の全飲食店舗に「Toss Front」を設置した。観客は財布やスマートフォンを使わず、顔認証だけで決済できるようにした。
これに先立ち、TossはHyundai Motorの整備ネットワークBluehands、Pulmuone Food&Cultureの休憩所、Youngpoong Bookstore、Seoul International Garden Showの「Booknic」イベントなどでも、FacePayの利用機会を広げてきた。韓国フランチャイズ産業協会とも業務協約を結び、フランチャイズ業種での導入拡大を進めている。
Naver PayとTossの戦略は異なる。Naver Payは、Naverプレイスやレビュー、クーポンなど既存の地域商圏エコシステムを端末と結び付け、小規模店舗の運営インフラへと広げる戦略を取る。
これに対しTossは、大規模な会員基盤とブランド提携、オフライン体験施策を前面に打ち出し、顔認証決済の利用体験を短期間で広げようとしている。
共通するのは、端末の重要性だ。顔認証決済は、既存のQR決済やアプリカード決済に比べ、店舗端末への依存度が高い。利用者と加盟店を同時に確保し、決済頻度を高める構造である以上、立ち上がり期には端末の普及スピードがそのままサービス拡大の速度を左右する可能性が高い。
とりわけオフライン決済端末は、いったん設置されると一定期間継続利用される傾向が強く、先行者利益が大きい。加盟店にとっても端末の切り替えは、決済手段だけでなく、POS連携、精算、店舗管理機能とも関わるため、単純な販促だけで簡単に乗り換えにくい。両社がフランチャイズ、小規模事業者、各種機関との提携を通じて接点拡大を急ぐのはこのためだ。
もっとも、顔認証決済の普及には課題も残る。生体情報の活用に対する利用者の信頼、決済エラーの可能性、セキュリティ管理体制の整備などが欠かせない。利便性が高くても、顔情報を登録することへの心理的なハードルはなお残っており、利用体験を積み重ねる過程が必要になりそうだ。
このため、顔認証決済を巡る競争の焦点は、単純な登録者数ではなく、実際に決済できるオフライン接点の広さに移りつつある。TossとNaver Payが端末普及と加盟店提携で攻勢を強める中、オフライン簡便決済市場の主導権争いは一段と激しくなっている。
別の業界関係者は「顔登録の過程で、生体情報に漠然とした不安を感じる利用者もいる。セキュリティへの信頼を継続的に積み上げることが重要だ」と指摘する。その上で「よく行くカフェやコンビニ、飲食店など、さまざまな場所で自然に使えるようになってこそ、顔認証決済は日常的な決済手段として定着する」との見方を示した。