国内主要ゲーム会社のESG(環境・社会・ガバナンス)経営が変化している。各社が公表した2025年の持続可能性報告書では、環境キャンペーンや寄付といった対外活動よりも、ユーザー保護、情報保護、AI倫理、人材確保など、事業運営に直結するテーマを重視する姿勢が鮮明になった。
オンラインゲームやモバイルゲームは長期運営が前提となる。このため、サービス障害や個人情報流出、不正行為への対応遅れは、ユーザー離れや売上減少に直結しかねないとの判断が背景にあるとみられる。
◆ユーザー信頼を財務リスクとして管理
各社の報告書で目立ったのが「二重重要性評価」の採用だ。企業活動が環境・社会に与える影響に加え、外部環境の変化が企業財務に及ぼす影響も同時に評価する枠組みで、ESG課題を放置した場合のコスト増や売上減少の可能性まで織り込む。
Pearl Abyssは2025年の二重重要性評価で、情報セキュリティ・個人情報保護、ユーザー保護、ワークライフバランス、人材管理の4項目を重要課題に挙げた。従来の重要課題だった多様性・包摂性、倫理・コンプライアンス経営は、今回の最終重要課題から外れた。
報告書では財務面への影響も具体的に示した。セキュリティ侵害による個人情報流出は、ユーザー信頼の低下を招き、サービス運営に対する処分によって売上が減少する可能性があるとした。個人情報保護法違反については、訴訟費用や過料の発生も想定されるとしている。バグ悪用やマクロなど不正プログラムへの対応遅れについても、ユーザー満足度の低下や売上減少につながると見込んだ。情報保護関連の支出はIT予算全体の約12%と公表した。
Neowizは初の持続可能性報告書で、ユーザーコミュニケーション、人材管理、情報保護、環境配慮型オフィスを4大課題に設定した。このうちユーザーコミュニケーションについては、「ファンに長く支持されるIPを育てる」という戦略と直結すると位置付けた。
Kakao Gamesは、ユーザー保護・サービス品質、情報セキュリティ、気候変動対応を3大課題に定め、それぞれについて財務への影響とリスク発生の可能性を併記した。Wemadeも、ゲーム・ブロックチェーン事業と密接に関わる「サービス品質管理」を新たな重点課題に加えた。
こうした内容を総合すると、ESG課題を社会貢献の延長ではなく、事業上のリスクと機会として管理する流れが強まっている。優先順位の軸が「何を実施したか」から、「何が成長機会となり、何がコストや損失につながるか」へ移りつつある格好だ。
◆AI、効率化ツールからガバナンス課題へ
ユーザー信頼の管理と並んで存在感を増したのがAIだ。生成AIの活用がゲーム開発や運営に広がり、生産性向上が期待される一方、著作権、データセキュリティ、個人情報、有害表現といった新たなリスクも浮上している。
Kraftonは、「持続可能なインフラ」「信頼できるパブリッシング」「責任あるAI」を3本柱としてESGの枠組みを整備した。責任あるAIでは、国際的な情報保護認証であるISO/IEC 27001、ISO/IEC 27701に加え、社内のAI関連協議体と取締役会傘下のESG委員会による点検体制を組み合わせ、AI活用原則を策定した。
Netmarbleは、自社のAIアート生成ツール「Kkアートジェン」によりゲームアセット制作の効率化を進めた。AI倫理・セキュリティに関するガイドラインを整備し、全社員がAIエージェントを利用できる体制も準備している。
NCは、リスク管理フレームワークの策定からモデル検証、運用モニタリングまでを含む段階別のAIリスク管理体系を提示した。Kakao Gamesは技術倫理委員会を通じて、著作権やデータリスクへの対応チェックリストを全社に配布した。
Pearl Abyssは別のアプローチを取った。外部の脅威情報とAI分析技術を組み合わせたセキュリティ監視システムを導入し、不正アクセスや異常行動の抑止を進めている。個人情報リスク管理の自動化に向けたAI活用の検討体制整備も、中長期計画に盛り込んだ。国別の法令変更のモニタリングも別途高度化している。
Krafton、Netmarble、NCがAIを開発効率化の手段として前面に打ち出す一方、Pearl Abyssは不正検知やリスク点検といった監視・統制に軸足を置く。AIがESGの新たな論点として浮上しているのは、活用規模そのものよりも、いかに責任を持って統制するかが問われているためだ。
◆同じリスクでも対応は各社で分かれる
もっとも、ユーザー信頼や情報セキュリティへの向き合い方は各社で異なる。
Kakao Gamesはゲームアクセシビリティを前面に押し出し、障害者のゲームアクセス向上事業「共にするプレイバディ」を代表事例として紹介した。Wemadeはゲーム・ブロックチェーン事業の特性を踏まえ、「サービス品質管理」を新たな重点課題に据えた。
Kraftonは独自の不正行為検知システム「KSS」により、前年に約795万アカウントに利用停止措置を講じたとして、「信頼できるパブリッシング」を強調した。NetmarbleはNetmarbleゲーム博物館を第1種専門博物館として登録し、ゲームを文化・歴史資産として保存するビジョンを打ち出した。Com2uSは、「Summoners War」の10周年興行や、野球ゲームの累計売上1兆ウォン達成など、長期ヒットIPの成果をゲーム事業の競争力と結び付けた。NCは新作「Aion2」のユーザーコミュニケーション事例を挙げ、ゲーム本業の競争力を持続可能性の中核に据えた。
Pearl Abyssは、人材・組織文化とゲームアクセシビリティを差別化要素として打ち出した。契約職、派遣職、特別職にも同一の福利厚生を提供し、2年連続で「大韓民国働きやすい企業」認証を取得した。色覚特性モードや障害者向け座席配置などを通じて、ゲームアクセシビリティも強化した。
環境分野の扱いは相対的に小さく見える。ゲーム産業は製造業のように直接排出量が大きい業種ではないためだ。ただ、重要度が低下したと断定できるわけではない。キャンペーンや寄付が中心だった過去と比べると、足元ではカーボンニュートラル目標、気候シナリオ分析、環境認証など、管理体制の整備に重点が移っている。