Smilegateの主力IP「Crossfire」が、プレミアムシングルプレイのAAAタイトルとして新たに展開される。開発を手がける米That’s No Moon(TNM)は、従来の対戦型シューターとしての枠組みをそのまま引き継ぐのではなく、敵対勢力に属する2人のエージェントによる危うい共闘を軸にした三人称視点の戦略アクションアドベンチャーとして再構成している。
Smilegateは5月29日、TNMのデビュー作となる「Crossfire」を紹介するデジタルブリーフィングを実施した。セッションにはTNM共同創業者兼最高クリエイティブ責任者(CCO)のテイラー・クロサキ氏と、ゲームディレクターのジェイコブ・ミンコフ氏が登壇。開発方針やゲームプレイの特徴を説明した。セッション後の書面インタビューでは、既存の「Crossfire」IPとの関係や適応型カバー、シングルプレイの物語構成についても補足した。
TNMは2021年設立の独立系AAAゲーム開発スタジオだ。クロサキ氏はNaughty Dogで「Uncharted」シリーズのナラティブデザインを率い、ミンコフ氏は「The Last of Us」や「Uncharted 3」でリードデザイナーを務めた。両氏はInfinity Wardでも「Call of Duty: Modern Warfare」(2019)などを手がけており、18年以上にわたる協業経験を背景に、物語とゲームプレイの一体化を開発の中核に据える。Smilegateは2021年、TNMに約1億ドル(約150億円)規模の戦略投資を実施している。
TNMは今回の新作について、既存の「Crossfire」シリーズを置き換えるものでも、直接の続編でもないと位置付ける。一方で、2勢力の対立構造や戦術戦闘の緊張感といったIPの核は維持しつつ、シングルプレイの物語体験へ落とし込むことを狙う。
クロサキ氏は「本作は既存の『Crossfire』を置き換えるものでも、直接つながる続編でもない。新たな物語を描くプレミアムAAA作品だ」と説明。「敵対する2勢力のせめぎ合いと戦術戦闘の緊張感という、このIPが長年培ってきたDNAは受け継いでいる」と述べた。
主人公はレイラ・カセムとデルロイ・クロス。2人は敵対する陣営のエージェントだが、圧倒的な脅威を前に生き延びるため手を組む。開発陣は、この関係を信頼で結ばれた相棒ではなく、あくまで生存のために成り立つ不安定な同盟として設計したという。
従来の「Crossfire」が2勢力の対立をマルチプレイで表現してきたのに対し、TNMによる「Crossfire」はその緊張関係を2人の関係性と物語に置き換える。クロサキ氏は「互いを信じ切れないが、協力しなければ生き残れない2人の不安定な同盟として描いている」と語った。
プレイヤーが操作するのはレイラのみ。クロスはプレイヤー操作の対象ではなく、自律的に行動するパートナーとして登場する。戦闘中には敵の注意を引きつけたり、制圧射撃でレイラの移動や離脱を支援したりする役割を担う。
ゲームプレイ面での大きな特徴が「適応型カバー(Adaptive Cover)」だ。周囲の地形や敵の視線に応じて、キャラクターの姿勢をリアルタイムで変化させる仕組みで、TNMはこれを本作の中核的な差別化要素に位置付ける。
ミンコフ氏は「従来のシネマティックアクションは、決め打ちのカバーポイントやスナップ式のアニメーションに依存することが多かったが、『Crossfire』ではそうした制約を外した。複雑な地形でも自然に身を隠せるようにした」と説明した。
開発陣によると、従来のカバーシューターは空間設計が定型化しやすく、プレイヤーが戦闘の発生地点を予測できてしまうことが没入感を損なう一因になっていたという。そこで本作では、Unreal Engine 5のNaniteとLumenを活用し、より複雑で有機的な環境表現を実現した。
ミンコフ氏は、開発チームが約10年にわたり軍事アドバイザーと連携し、現実の戦闘感覚を参照してきたと説明。直線的ではない地形で人がどう身を隠し、どう移動するかを検証するため、東欧のエアソフト競技施設の事例も調査したという。その上で、周辺地形と敵の視界を分析しながら姿勢を調整する、モーションマッチングベースの適応型カバーを実装した。
戦闘は単純な撃ち合いではなく、戦術判断を重視する設計だ。視線を切りながら位置を変え、側面を突くような立ち回りが求められる。ステルスと戦闘の比重も固定ではなく、状況によって回避できる場面と、正面からの交戦が避けられない場面が用意される。
敵NPCは分隊単位で行動し、制圧射撃や側面展開を行うほか、プレイヤーの最終目撃地点を追って捜索を続ける。ミンコフ氏は、発売時点から難易度変更オプションを用意する予定だと明らかにした。
同氏は「最初は難しく感じるかもしれないが、姿勢を自動で調整する適応型カバーによって、より多くのプレイヤーが戦術戦闘の面白さを無理なく体験できるようにしたい」と述べた。
一方で、開発陣は高い緊張感がプレイ疲れにつながる可能性も意識している。戦闘だけに偏らず、レイラとクロスの関係性やそれぞれの視点を掘り下げる、落ち着いた物語パートも挟み込み、緊張と緩和のバランスを取る方針だ。
物語はリニアに進行し、分岐選択やキャラクタークリエイトは採用しない。その一方で、戦闘では多様な戦術的選択を試せる構造とする。開発陣は、意外性がありながらも必然性を備えた物語を目指すとしている。
作品にはリアリティのあるSF要素も組み込む。ミンコフ氏は、実在する科学概念を下敷きにした架空の世界観に、現実の武器の精密な再現や銃声、環境描写を重ね、その上にSF的な脅威を加えたと説明した。中核となるSF設定や脅威の詳細は今後明らかにする。
クロサキ氏は、副題を付けずに「Crossfire」のタイトルを維持した理由について、「長年積み上げてきたIPの資産を尊重すると同時に、フランチャイズの進化を示す意味がある」と説明。「既存ファンと新規プレイヤーの双方に向けたプレミアムシングルプレイのシネマティック作品として、『Crossfire』ユニバースを広げるタイトルになる」と述べた。
今回のプロジェクトでは、SmilegateとTNMの協業も重要な背景にある。「Crossfire」は世界で11億人以上のユーザーを抱えるSmilegateの主力IPだ。クロサキ氏は、Smilegateのグローバルなパブリッシング力とTNMの開発経験が相乗効果を生んでいると語った。
対応プラットフォームはPlayStation 5、Xbox Series X|S、PC。発売時期や想定プレイ時間は明らかにしていない。追加課金型DLCではなく、1本で完結するプレミアムシングルプレイゲームとして仕上げる方針だ。
マルチプレイシューターとして成長してきた「Crossfire」IPが、プレミアムシングルプレイ市場でも存在感を示せるかが注目点となる。TNMは、原作が持つ勢力対立の構図をキャラクター中心の物語へ移し替え、適応型カバーによって戦闘とナラティブの一体感を高める考えだ。Smilegateにとっても、グローバルAAA IP拡張の試金石となりそうだ。