SpaceXの新規株式公開(IPO)を巡り、Elon Musk氏の純資産が1兆ドルに達する可能性が浮上している。企業価値の急拡大が見込まれる一方、Musk氏への議決権集中や指数採用ルールの扱い、株主権利の制限など、ガバナンスを巡る議論も広がっている。
CNBCやThe Vergeなどが3日(現地時間)に報じたところによると、SpaceXは修正目論見書で公募価格を1株135ドルと提示した。これを基に算定した企業価値は約1兆7700億ドル。市場では、2兆ドル前後の超大型上場となる可能性も指摘されている。
この評価を前提にすると、Musk氏が保有するSpaceX株の価値は8665億ドルに達する。これにTesla株の保有分約3550億ドルと、1000億ドル超と推定されるオプション価値を加えれば、同氏の純資産は1兆ドルを超える計算になる。
SpaceXの上場は、Musk氏がTeslaを上場させて以来、16年ぶりに手がける大型IPOとなる見通しだ。上場後も、Musk氏はSpaceXの議決権の80%超を維持するとみられている。
こうした資本構成を受け、取締役会の構成や報酬、重要な経営判断がMusk氏の意向に大きく左右されかねないとの見方が出ている。複数議決権株の仕組みが、経営の独立性や少数株主の影響力を弱めるとの懸念もある。
論争の対象には、Musk氏が今年受け取った13億株の譲渡制限付き株式も含まれる。この報酬は、火星に100万人規模の居住地を築くことや、宇宙データセンターの構築といった長期目標と連動しているとされる。
ただ、これらの目標を達成する前でも議決権を行使できる仕組みだという。
SpaceXは目論見書のリスク要因で、Musk氏の大規模な持ち分は会社の成功を後押しする経済的インセンティブになると説明した。一方で、366日のロックアップ期間終了後は、同氏が保有株を維持する義務はないとも明記した。
そのため、ロックアップ解除後には保有株の全部または相当部分を売却し、持ち分比率を引き下げる可能性がある。
指数組み入れを巡るルールも論点となっている。通常、主要指数への採用には約90日を要するが、SpaceXについては15日でNASDAQ100に組み入れられるよう規定が緩和されたと伝えられている。
この場合、NASDAQ100に連動するインデックスファンドは、独自の投資判断にかかわらずSpaceX株を組み入れる必要が生じる。
株主権利の制限も問題視されている。報道によると、株主が証券法違反や詐欺を訴える場合でも、通常の株主訴訟ではなく仲裁手続きに付される仕組みが盛り込まれたという。
上場後も、投資家が経営陣をけん制する手段が制約される可能性があるとの見方が出ている。
業績面では、Starlinkが主力の収益源として存在感を強めている。Starlinkの2025年売上高は114億ドルで、SpaceX全体の売上高は186億7000万ドルだった。
一方、AI部門は約64億ドルの赤字を計上し、米航空宇宙局(NASA)の打ち上げ契約でも6億5700万ドルの損失を出した。
それでもSpaceXは、企業向けAI市場が22兆7000億ドル、市場全体では28兆ドルに達するとの見通しを示し、AIを新たな成長の柱に位置付けている。一部投資家の間では、将来的にAI関連資源の統合や資金調達の効率化を狙い、SpaceXとTeslaの統合をMusk氏が模索する可能性も取り沙汰されている。
上場書類では、Xの業績動向にも言及があった。Xは売上高の伸びと利用者数の増加が鈍化し、主要指標も総じて低下したという。
ただ、AI企業向けのデータライセンス売上高は増加している。Musk氏がXを買収後、アルゴリズムや表示の仕組みを自ら統制するようになった点も、支配力を巡る議論の一環として取り上げられている。
SpaceXが想定企業価値に近い水準で上場すれば、Musk氏はTeslaとSpaceXという米国の超大型企業2社を実質的に掌握することになる。ただ、売上規模では既存の大手テック企業との差は大きい。
Metaの2025年売上高は2000億ドルを超え、Teslaは約950億ドルだった。
今回のIPOは、Musk氏の個人資産が1兆ドルに到達するかを占う材料であると同時に、SpaceXの企業価値が市場で本格的な検証を受ける最初の試金石にもなる。Starlinkの収益力とAI成長への期待が評価の支えになる一方、議決権の集中、指数採用ルール、株主権利の制限を巡る論争はなお尾を引きそうだ。