カナダ政府は4日、新たな国家AI戦略「AI for All」を発表した。規制の見直しと教育拡充、国内AI基盤への投資を柱に、AIへの信頼確保と導入拡大を進める。公共AIスーパーコンピューターの整備も打ち出した。
Engadgetの報道によると、マーク・カーニー首相は同日、この戦略を公表した。今後5年間のAI関連立法とインフラ投資を主導し、カナダ国内のAI基盤を強化する方針を示した。
戦略は、AIによる雇用創出と産業競争力の強化を重視する。発表文では、世界のAI市場が2033年に4兆8000億ドル規模に達するとの見通しを示し、カナダにも機会は限られるものの、明確に存在すると位置付けた。カーニー首相は、AIがすべてのカナダ国民のために機能するようにし、技術の活用によって雇用を生み出し、国民を守り、繁栄を強化すると述べた。
政策の柱の1つは規制整備だ。カナダ政府は個人情報保護に関する法制度を見直し、ディープフェイクや監視データに基づく価格設定といった有害な慣行への保護を強化する計画だ。チャットボットやソーシャルメディアの利用者を保護する「オンライン安全枠組み」の整備も進める。
教育と利用機会の拡大も盛り込んだ。政府は、無料の初級AI教育を提供する国家AIリテラシー・イニシアチブを立ち上げ、すべての高等教育機関の学生に信頼性の高いAIエージェントへのアクセスを提供するとした。カーニー首相は、この戦略によって最大9万件のAI関連雇用と就業機会を創出すると説明した。
産業面では、公共AIスーパーコンピューターの整備を中核施策に据えた。あわせて、カナダが保有・運営する計算資源やクラウド基盤など、主権型インフラへの追加投資も予告した。これらのインフラ投資は、カナダのクリーンエネルギー目標に沿って進める。政府調達を通じて、成長資本へのアクセスも支援する方針だ。
一方で、この戦略が市場や社会の反発をどこまで織り込んでいるかは課題として残る。戦略文書はカナダ国内のAI懐疑論に言及したものの、AI導入が必ずしも生産性向上に直結しない点や、技術全般への拒否感の広がりについては十分に扱っていないとの指摘がある。
また、戦略ではこうした課題をコミュニケーションとアクセスの問題として整理しているが、ChatGPTやGemini、Claudeといったサービスが無料で利用できる環境でも、AI活用が想定ほど広がっていない背景には、技術そのものや生成物の限界がある可能性も指摘されている。
今回の戦略は、規制と保護措置を強化しながら、産業育成と普及拡大を同時に進める内容だ。今後は、法制度の見直しがディープフェイクや個人情報保護、オンライン安全の課題をどこまで具体化できるかに加え、大規模なインフラ投資と教育拡充が実際のAI導入や雇用創出につながるかが焦点となる。