ゲーム業界で、人工知能(AI)の活用領域がゲーム制作の効率化から産業用途へ広がっている。各社はロボット、自動運転、防衛、製造、造船といった分野で外部企業との協業を進め、フィジカルAIの事業化を探る動きを強めている。
フィジカルAIは、ロボットや自動運転車、工場設備、物流システムなど、現実世界で稼働する機器やシステムに適用するAIを指す。テキストや画像を中心に扱う生成AIが主にデジタル空間で機能してきたのに対し、フィジカルAIでは物理法則や空間、環境変化を踏まえて自律的に判断し、行動する能力が求められる。
その中核となるのが、現実に近い仮想環境で反復学習を行うシミュレーション技術だ。ゲーム会社は、キャラクターの移動や衝突判定、地形変化、NPCの行動設計などを通じて物理ベースのシミュレーション技術を蓄積してきた。こうした技術が、ロボットや無人システム向けの学習環境構築にも応用できるとみられている。
NC AIは、その中核技術として「World Model」を掲げる。AIが現実の物理法則や環境変化を学習・予測し、ロボットの判断能力向上につなげる技術だ。
同社が注力するのは、フィジカルAIの主要課題とされる「Sim-to-Real Gap」の低減だ。仮想空間で学習したロボットが、実環境では想定外の変数によって誤作動する問題を抑えることが狙いとなる。NC AIによると、今年3月に公開した軽量版World Modelは、世界最高水準のモデルと比べてGPU使用量を25%程度に抑えながら、同等の性能を示したという。
防衛分野では、NC AIが5月に現代ロテムとコンソーシアムを組み、国防科学研究所(ADD)が発注した「フィジカルAI基盤の統合シミュレーターおよびモジュール型ロボットシステム」プロジェクトの事業者に選定された。将来の戦場でドローンや無人車両を統合運用するシステムの構築を目指す案件で、NC AIはWorld Modelの開発を担う。
製造分野での連携も進む。NC AIはPOSCO DXと、製造現場向けロボットのファウンデーションモデルの共同開発に着手した。NC AIが視覚・言語・行動を統合処理するVLAモデルの高度化を担い、POSCO DXはデジタルツインを基盤とするテスト環境の構築を担当する。
造船分野にも展開を広げている。NC AIは6月4日、Hanwha Oceanから「ビジョン認識基盤の溶接専用モデルおよび協働ロボット基盤の自律溶接モデル開発」案件を受注したと発表した。
この案件は、船舶建造の中核工程である溶接作業にAIの画像認識とロボット制御技術を組み合わせるものだ。あらかじめ定めた軌道を繰り返す従来型の自動化から一歩進め、ロボットが溶接部位を認識し、状況に応じて溶接条件を判断する仕組みの構築を目指す。開発したシステムは今後、Hanwha Oceanの商船と特殊船の建造工程に適用する予定だ。
一方、Kraftonは異なるアプローチを取る。ハードウェアを自前で手がけるのではなく、自社のAI・ソフトウェア開発力を、実データを保有する企業と組み合わせる戦略だ。
Kraftonは2025年、米国にロボティクス研究法人「Ludo Robotics」を設立し、2026年2月には韓国法人も立ち上げた。組織はキム・チャンハン代表とイ・ガンウク最高人工知能責任者(CAIO)が率いる。
3月13日にはHanwha Aerospaceと、フィジカルAI技術の共同開発および合弁会社設立に向けた業務協約を締結した。あわせて、Hanwha Asset Managementが組成する10億ドル規模のAI・ロボティクス・防衛産業ファンドへの参加も決めた。
4月末には、Socarが推進する1500億ウォン規模の自動運転新設法人に出資する方針も示した。KraftonはSocarに650億ウォンの戦略投資を実施し、新設法人にも別の投資家として参加する形となる。
Socarは2026年1〜3月期、2万5000台のカーシェアリング車両を基盤に、1日当たり約110万km分の走行データを収集するデータパイプラインを構築した。22万件に上る事故データなど、自動運転AIの学習に必要なエッジケースデータも確保した。Kraftonは、こうした公道データをフィジカルAIの研究開発に活用する構想だ。
両社の狙いはやや異なる。Kraftonは業績が堅調な一方で、「PUBG: BATTLEGROUNDS」に続く新たな成長ストーリーの構築が課題になっており、フィジカルAIを次の成長軸に位置付ける。NC AIは、主力ゲーム事業の先行き不透明感が強まる中でAI組織を物的分割し、独立法人化した経緯がある。フィジカルAI事業は、独立会社として収益性を証明する試金石という意味合いが強い。
もっとも、両社に共通する背景もある。大型ゲームの開発は、数年単位の時間と巨額の投資を要しても、ヒットが保証されるわけではない。一方、防衛、製造、造船などB2B領域のフィジカルAIは、初期検証と実績づくりこそ必要だが、導入事例を確立できれば長期的な取引へ発展する余地が大きい。
ゲーム会社にとってフィジカルAIは、技術面の強みと事業面の必要性が重なる領域といえる。蓄積してきた技術資産を再活用しつつ、ゲームとは異なる収益構造を築ける可能性があるためだ。その意味で、単なる新規事業というより、事業ポートフォリオの再編に近い動きといえる。
業界関係者は「ゲーム会社が数十年にわたって蓄積してきた仮想世界の実装技術は、フィジカルAI市場でも想定以上に強い競争力を持つ」と指摘する。その上で「各社は短期的な成果よりも、技術資産を産業分野へ展開できるかを見据えて動いている。ゲーム会社の事業構造を根本から変える転換点になり得る」と話した。