写真=PulmuoneでSCMを担当するアン・スンシク氏

Pulmuoneは、サンフランシスコで開催された年次グローバルカンファレンス「Snowflake Summit 26」で、Snowflake基盤を活用したSCM向けAI導入事例を公開した。海外拠点の需要分析をAIエージェントで支援する取り組みで、最大の課題はAIが活用できる形へのデータ整備だった。完了までには6カ月以上を要したという。

同社でSCMを担当するアン・スンシク氏は、セッション後の取材で、SCMインテリジェンスプロジェクトの背景や導入プロセス、成果、今後の計画を説明した。

アン氏はまず、食品業界のSCMは需要予測のわずかなずれが在庫の積み上がりにつながりやすく、値下げや移送、廃棄といった対応を迫られやすいと指摘した。

同氏は「電子や自動車はすぐに売れなくても廃棄にはならないが、食品はそうはいかない。SCMの意思決定が収益性に与える影響は年々大きくなっている」と話した。

海外法人を抱えると、こうした複雑さはさらに増す。需要分析や在庫リスク、供給計画、収益性評価、シナリオ分析といった機能が本社側に集中し、現地人材に常時共有しにくい構造があるためだ。時差の問題も重なり、Pulmuoneは解決策としてAIエージェントの活用を選んだ。

アン氏は「AIエージェントであれば、現地チームが24時間いつでも質問できる。人が支援するよりはるかに効率的だ」と述べた。

一方で、実装は容易ではなかった。最大の壁はデータクレンジングと標準化だった。SCMシステム上のデータをAIが扱える形に変換・整備する作業だけで、6カ月以上かかったという。

アン氏は「システムごとにフィールド名が異なっていた。同じアイテムコードでも、あるシステムでは『item』、別のシステムでは『item_code』、さらに別のシステムでは『IMP』として保存されていた。桁数も統一されていなかった」と説明した。

その上で「こうしたデータを標準化しなければ、AIに同じことを聞いても答えが変わってしまう」と語った。

既存データをAI-readyデータに変換するには、業務を理解した人材の関与が欠かせないという。アン氏は「ドメイン知識に加え、複数部門と円滑にコミュニケーションできる力も必要になる」と述べた。

プロジェクト推進では、ビジネス文脈の不足も課題になった。適切な回答を得るには、AIが自社の事業を理解できるよう事前に準備する必要がある。導入初期に現場へAIエージェントを提供した際、「答えが合わない」という反応が多かったのも、そのためだという。

このためPulmuoneは、一般的なSCM業務知識に加え、社内で共通して使うビジネス用語や内部報告資料を整理し、知識レイヤーとして構築した。

アン氏は「Snowflakeプラットフォーム上で、Anthropic基盤の知識管理体系を活用し、汎用的な業界知識とPulmuone固有のドメイン知識を2つのレイヤーに分けてエージェントに組み込んだ」と説明した。

さらに同氏は「競争優位を左右するのは完璧な予測ではない。計画と実績にずれが生じたとき、どれだけ速く、漏れなく対応できるかだ」と指摘。「難しいのはモデル連携ではなく、このビジネスの考え方をエージェントに理解させることだ」と強調した。

分析の高度化も重要なテーマだった。単純な質問応答にとどまらず、ビジネス上意味のあるアウトプットを返せるようにする必要があったためだ。Pulmuoneはその対応として、分析フレームワークそのものをエージェントに組み込む方向へ方針を切り替えた。

アン氏は「シグナルを検知したら、どこで発生したのか、なぜ起きたのか、一時的な問題なのか構造的な問題なのか、特定チャネルの価格政策に起因するのか、ライフサイクルの問題なのかまで順に分析する」と述べた。

例えば、特定のSKUを終売する場合には、残在庫への影響、生産スケジュールの変化、コスト配賦の見直し、全体損益への影響までをシナリオとして提示するという。

社内テストでは、SCM向けAI分析の結果はSnowflake上のデータと100%一致する水準に達したとしている。データモデリング構造の切り替え作業も大幅に短縮された。

アン氏は「従来は数カ月かかっていた韓国、日本、米国法人のモデリング切り替えを、Snowflakeのコーディングエージェント『Coco』を使って3週間で終えた」と明らかにした。

PulmuoneのSCMインテリジェンスプロジェクトは現在も進行中で、現場での利用拡大が次の課題になっている。アン氏は「今年は、こうした機能を社内に周知し、できるだけ多くの社員に実際に使ってもらうことが重要な目標だ」と述べた。

その上で、「最終的には、市場変動が起きた際にAIが自動で計画を調整するセルフヒーリングへ進むだろう」との見通しを示した。ただし、人の役割がなくなるわけではないとも付け加えた。

アン氏は「最終責任は引き続き人が負うため、人はプロセスの中に残る。ただ、人が担ってきた業務がAIによって効率化される流れは今後も続く」と語った。

キーワード

#Pulmuone #Snowflake #SCM #AI #AIエージェント #データ標準化 #AI-readyデータ #Anthropic #Coco
Copyright © DigitalToday. All rights reserved. Unauthorized reproduction and redistribution are prohibited.