Teslaの最新運転支援システム「Full Self-Driving(FSD)」v14を巡り、性能向上がかえって新たな安全リスクを生む可能性が指摘されている。システムの限界そのものよりも、長時間にわたって介入不要の状態が続くことで、運転者が注意力を失い、自動化を過信しやすくなる点が問題視されている。
電気自動車専門メディアのElectrekは6月1日(現地時間)、FSD v14について、複雑な市街地でも安定した走行を見せる一方、介入を要しない状態が長く続くことで、かえって運転者の警戒心が薄れるおそれがあると報じた。
現在のFSDは、米自動車技術会(SAE)の基準でレベル2の先進運転支援システム(ADAS)に位置付けられる。操舵や加減速を支援する機能は備えるが、道路状況の監視と必要時の即時介入は、あくまで運転者の責任となる。
ところが、FSD v14を継続的に利用している一部の運転者からは、数百マイルにわたり介入が不要なケースが増え、緊張感を保つのが難しくなったとの声が上がっている。
Electrekは、今回の論点はFSDの性能不足ではなく、むしろ「うまく動きすぎる」ことにあると指摘する。多くの場面を問題なく処理するほど、運転者は監視役に慣れ切ってしまい、突発的に介入が必要な局面で反応が遅れる可能性があるという。
初期データでは、FSD v14は重大な介入が必要になるまで数千マイル走行できる水準に達したとされる。時間に換算すれば、運転者が30〜40時間以上にわたり、実質的にシステムを見守るだけの状態に置かれ得ることになる。
背景にあるのは、人間の認知特性だ。自動化システムの研究では、単調な監視作業を続けることで集中力が低下する現象を「Vigilance Decrement(警戒低下)」と呼ぶ。研究によれば、こうした状態に陥った運転者が再び手動操作を引き受ける際、平均で5〜8秒程度の再集中時間を要するという。
実例もある。Uberの自動運転部門で責任者を務めたラフィ・クリコリアンは、過去にFSD使用中の事故を経験し、車両は全損となったという。Electrekは、自動運転技術への理解が深い専門家であっても、長期間にわたり正常に作動するシステムへ依存するうち、緊急時の対応が難しくなる可能性があると伝えている。
規制当局や業界団体も同様の懸念を示している。IIHSは、自動車メーカーがレベル2システムの設計を抜本的に見直す必要があると警告した。米道路交通安全局(NHTSA)も、レベル2の先進運転支援システムに関する事故報告義務の拡大など、監督を強めている。
Tesla出身者の見解も議論を呼んでいる。ロイターによると、過去にTeslaのAI学習プロジェクトに参加した9人のうち7人が、FSDに運転を全面的に委ねることはしないと回答した。
Teslaの訴求方法にも批判の目が向けられている。同社は公式X(旧Twitter)でFSDを「個人運転手」や「自由を取り戻す技術」と表現してきた。イーロン・マスクCEOも、FSDが運転中の生活の質と安全性を大きく高めると主張している。
一方で、Teslaの公式約款は現在も、運転者による継続的な監視と即時介入を求めている。業界では、宣伝メッセージと実際の責任範囲の間に乖離があるとの見方が出ている。
とりわけ、視力低下のある高齢者や身体障害のある利用者をFSD活用例として紹介してきた点には批判もある。レベル2システムは、運転者がいつでも車両の制御を引き継げることを前提としているためだ。
専門家の間では、今後の焦点は単純な性能向上ではなく、システムの実際の機能と利用者認識のギャップをどう埋めるかに移るとの見方が強い。業界では、Teslaが運転者モニタリング機能をさらに強化するのか、それとも完全自動運転を想起させる訴求表現を見直すのかが、今後の論争の中心になるとみられている。