欧州中央銀行(ECB)。写真=Shutterstock

欧州中央銀行(ECB)は、ステーブルコインの普及拡大が金融安定を脅かし、米ドル中心の国際通貨体制をさらに強める恐れがあるとして警戒感を示した。民間発行のステーブルコインよりも、中央銀行主導のデジタル通貨基盤の整備を優先すべきだとの立場を改めて打ち出した。

Cointelegraphが6月1日(現地時間)に報じたところによると、ECBのイザベル・シュナベル理事はソウルで開かれた韓国銀行の国際会議で講演し、ステーブルコインの潜在リスクと欧州の対応方針を説明した。

シュナベル氏は、ステーブルコインを伝統的な金融市場のマネー・マーケット・ファンド(MMF)になぞらえた。トークン化金融の拡大に伴い、既存の金融システムが抱える脆弱性がデジタル資産市場に持ち込まれる可能性があると指摘した。

そのうえで、ステーブルコインは金融イノベーションを促す手段になり得る一方、銀行の仲介機能の低下や大規模な預金流出、資産の投げ売り、金融政策の伝達経路の弱体化といったリスクを伴うと説明した。

特に懸念を示したのが通貨主権への影響だ。利用が広がれば、米ドルの国際的な支配力をさらに強める可能性があるとした。

現在の世界のステーブルコイン市場は、実質的にドル建てトークンが主導している。Tether(USDT)やUSD Coin(USDC)など、米ドルに連動する銘柄が大半を占め、ユーロを含むその他通貨建ての比率は限定的だという。

ECBは、こうした構造が拡大すれば、米国の金融政策の影響が他国経済へ一段と強く波及しかねないとみている。民間発行のドル建てステーブルコインが国際決済や資産取引の中核的な手段になれば、各国中銀の金融政策の自律性が損なわれるとの懸念を示した。

こうした問題意識を踏まえ、ECBはデジタル金融時代への対応として2つの柱を前面に出す。一般消費者向けの「デジタルユーロ」と、金融機関間取引での利用を想定したホールセール型のトークン化中央銀行通貨だ。

ECBは3月、欧州のトークン化金融市場の構築に向けたロードマップ「Appia」を公表した。このうち「Pontes」プロジェクトは、分散型台帳技術(DLT)ベースの決済ネットワークとユーロシステムの既存決済インフラを接続する取り組みで、2026年第3四半期の稼働を目標としている。

シュナベル氏は「中央銀行はこうした変化を傍観するわけにはいかない」と述べ、公的通貨の現代化の必要性を強調した。民間発行のデジタル通貨が広く採用されれば、金融システムを「元に戻しにくい形で変えかねない」とも指摘した。

重要なのはイノベーション自体を阻むことではなく、金融安定と通貨への信認を維持できる枠組みの中でイノベーションを受け入れることだとした。

今回の発言は、欧州でステーブルコインを巡る政策論議が続く中で出た。ECBのクリスティーヌ・ラガルド総裁も先月、ユーロの国際的な影響力を高めるうえで最も有効なのは、ユーロ建てステーブルコインの拡大ではないとの認識を示していた。

欧州連合(EU)は現在、暗号資産規制の枠組みであるMiCA(暗号資産市場規制)の見直しを進めている。意見公募は8月末まで実施される予定だ。

これに対し、暗号資産業界はより柔軟な規制を求めている。Coinbaseで欧州・米州の政策統括を担うケイティ・ハリス氏は、MiCAについて、準備金規定や発行要件を見直し、ユーロ建てステーブルコインの競争力を高めるべきだと主張した。

あわせて、規制を順守する企業が分散型金融(DeFi)やグローバルな流動性にアクセスできる、明確な制度上のルートが必要だと訴えた。

一方、ECBは規制緩和に慎重な姿勢を崩していない。ECBは先月、EUの財務相に対し、ステーブルコイン規制を緩めれば銀行の貸出機能が弱まり、金融政策運営が一段と複雑になる可能性があると警告した。

ドル建てトークンに後れを取るとの懸念がある一方でも、ECBは競争力の確保より金融安定と通貨統制の維持を優先する姿勢を鮮明にしている。

欧州のステーブルコイン政策は今後、競争力強化と金融安定のどこに均衡点を置くかが焦点になりそうだ。現時点では、ECBがデジタルユーロと中央銀行決済インフラを軸に据え、民間ステーブルコインはより厳格な規律の下で位置付ける方針を明確にしている。

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