コーディングAIの進化によってソフトウェア開発の参入障壁は下がりつつある。ただ、その分いっそう重要になるのは、コードを書く力そのものではなく、対象業界や業務の流れを理解し、システムが実際の要件を満たしているかを見極める力だという。
オンラインメディア「GIGAZINE」が1日付(現地時間)に報じたところによると、ソフトウェア開発者のアーロン・ブレトホルスト氏は、AIによるコード生成が進むほど、システムが現実の業務要件に適合しているかを判断する専門知識の価値は高まると指摘した。
同氏は、ソフトウェア開発の難しさは、コードを書く作業そのものよりも、対象業界や業務構造を正確に把握することにあるとみる。例えば給与計算システムでは、計算ロジックを実装すること以上に、税率や控除条件、給与期間ごとの調整ルールを正しく理解して初めて、システムが適切に動作しているかどうかを判断できると説明した。
具体例として挙げたのが、物流業界で15年間働いた配車担当者と、優秀なソフトウェアエンジニアが同じAIコーディングツールを使うケースだ。配車担当者はプログラミングができなくても、AIが生成した物流システムが現場の要件に合っているかを判断できる。一方、エンジニアはコードの品質を評価できても、そのシステムが業務要件を満たしているかまでは見抜けない可能性があるという。
ブレトホルスト氏は、コードとは業界知識を形にした成果物に近いと述べる。さらに、エージェント型AIの登場によって、人が内部の動作モデルを一から組み立てなくてもソフトウェアを作れる場面が増え、専門知識とコーディングを一体で学ぶ必要があった従来の開発手法の結び付きも弱まってきたと分析した。
その結果、エンジニアと現場の専門家の相対的な価値にも変化が生じつつある。これまでエンジニアは、専門家と協業しながら、実運用の環境で試行錯誤を重ねてシステムを構築してきた。一方、現場の専門家は、信頼できるソフトウェアの作り方を身に付けるまでに時間がかかり、自らシステムを開発するケースは限られていた。しかしAIの進歩で、アイデアを実際に動くソフトウェアへ転換するコストが大きく下がり、エンジニアの技術的優位は相対的に薄れる一方、具体的な現場知の価値は高まっているという。
こうした見方を裏付ける事例として、Anthropicのハッカソンも紹介された。最新AIモデルの活用を競うこのイベントには500人が参加し、その多くは開発者だったが、受賞者5人のうち3人はソフトウェアをリリースした経験がなかった。システム研究者のデクスター・ハドルリー氏は、専門知識がコーディング能力を上回った例だと評価した。
ブレトホルスト氏は、経験のあるエンジニアが今後時間を投じるべき領域として、実際の産業や業務プロセス、専門機器、規制制度への深い理解を挙げた。整ったコードを実装する技術の価値は低下する一方で、現実の業務を深く理解し、実務の中で検証されてきた知識は引き続き希少だとしている。
もっとも、現場の専門家がすぐにソフトウェア開発で成功できるわけではないとの反論もある。Hacker Newsでは、システムの出力が正しいかを検証する能力と、そもそも正しい出力を生むようAIに指示する能力は別だとの意見が示された。特定分野の専門家であっても、深い知識を持つ一方で、経験則として身に付けたルールを、AIが理解できるテストや要件として明確に整理することには苦労し得る、という指摘だ。