開発現場でAIコーディングツールへの依存が強まっている。生産性向上への期待は根強い一方、実測では必ずしも成果が伴わず、AIを使わない条件での検証自体が難しくなりつつある。論点は開発速度そのものよりも、バグ修正や保守を含む長期コストへと移り始めた。
TechCrunchが5月29日(現地時間)に報じたところによると、AI研究機関のMETRは、一部の開発者が実験参加を拒むほどAIツールへの依存が深まっていると明らかにした。
背景にあるのは、開発者の実感と実際の測定結果のずれだ。METRは2025年に公表したオープンソース開発者向けの研究で、AIを使わない場合とAIを活用した場合の作業時間を比較した。
参加者の多くはAIによって生産性が高まったと感じていたが、測定結果は逆を示した。コード生成の工程は速くなった一方で、エラーの発見・修正やAIの出力待ちが新たに発生し、全体の作業速度はむしろ低下したという。
METRは2026年2月、AI性能の向上や開発者の習熟度の変化を確認するため、同様の実験を再実施する計画だった。しかし、AIを使わない条件での参加をためらう開発者が出たことから、方針を見直した。
その後、METRは5月に技術職従事者を対象としたアンケートへ切り替えた。回答者の間では、AIの活用によって組織内での自らの価値が2倍になったと受け止める傾向が確認されたという。
ただ、企業の現場では、こうした自己評価に疑問を投げかける事例も相次いでいる。2026年に入って広がった「Tokenmaxxing(トークンマキシング)」は、AIの利用量、特にトークン消費量を生産性の代替指標とみなす動きを指す。
Amazonは、従業員がAIエージェントを過度に動かしてコストを膨らませたことを受け、社内で運用していたトークン利用ランキング「Kirorank(キロランク)」を停止した。
The Informationは、Uberが2026年のAI予算を4カ月で使い切ったと報じた。Uberの最高執行責任者(COO)アンドリュー・マクドナルド氏は、こうした支出がプロジェクトの成果や生産性向上に結び付かなかったと述べた。
課題はスピードではなく、その後に発生するコストだとの指摘もある。プログラマーで作家のジェームズ・ショア氏はHacker Newsで、AIによってコードを書く速度が2倍になったのであれば、保守コストも半分になったかを検証すべきだと説明した。
そうでなければ、一時的な速度向上と引き換えに、長期的な保守負担を抱え込むことになりかねないという問題意識だ。AIが短時間で生成したコードを、最終的には人間が継続して管理しなければならないことへの警鐘でもある。
関連する指標も出ている。エージェント系スタートアップEntelligenceAIの創業者兼CEO、アイシュワリヤ・サンカル氏は、企業が消費するトークンの44%が、AIが生成したバグの修正に費やされていると主張した。
コードレビュー企業CodeRabbitも、オープンソースのプルリクエストを分析した結果、AIが生成したコードは人手で書かれたコードに比べて1.7倍多くの問題を生んだと公表した。もっとも、この数値は関連ツールを提供する企業の分析であり、評価には留保が必要だ。
独立研究でも同様の傾向が示されている。シンガポール経営大学の研究チームは4月の報告書で、「AIが生成したコードは、将来の実プロジェクトで長期的な保守コストを招く可能性がある」と警告した。
つまり、AIは短期的に開発速度を押し上げる可能性はあるものの、その効果が中長期まで続くとは限らないということだ。
対応策としては、AI活用をさらに進める方向と、人間の役割を再定義する方向の双方が挙がっている。AIコーディングエージェント「Devin」を開発したCognitionのスコット・ウーCEOは、AIエージェントが独立して働けるとの見方を示す一方、現時点の能力は課題によってジュニアとミドル級の開発者の中間程度にとどまると評価した。
全面的に業務を任せられる段階ではない、という認識だ。
一方、シンガポール経営大学の研究チームは、より保守的な運用原則を示した。開発者は、AIの得意分野と不得意分野を、自らが使うプログラミング言語と同じくらい正確に理解し、AI活用を前提とした堅牢な品質保証体制を整える必要があるとした。
さらに、AIの生成物はジュニア開発者のコードをレビューするのと同じ水準で細部まで確認し、ソフトウェアアーキテクチャやセキュリティ設計といった全体設計は引き続き人間が担うべきだと提案した。
AIコーディングツールはすでに開発現場の基本ツールになりつつある。ただ、導入効果を単純な生産性向上だけで測るのは難しいことも明らかになってきた。今後の焦点はコード生成の速さではなく、そのコードをどれだけ低コストで長期的に維持し、検証できるかに移っていきそうだ。