King's College Londonの研究チームが、Googleの量子チップ「Willow」に早期アクセスできる研究機関として初めて採択された。Google Quantum AIと英国国家量子計算センター(NQCC)が運営する早期アクセスプログラムを通じたもので、脳内ニューロンの量子的類似体のモデリング研究を進める。
オンラインメディアのGIGAZINEは5月29日(現地時間)、この内容を報じた。採択されたのは、King's College London物理学科のエレノア・クレイン博士が率いる研究チーム。Willowを活用し、計算神経科学と量子モデリングを結び付ける新たな研究アプローチの開拓を目指す。
Willowは、Google Quantum AIが開発した105量子ビットの量子チップだ。従来のコンピュータが0と1の二進法で演算するのに対し、量子コンピュータは0と1を同時に扱える量子ビットを用いる。
一方、量子ビットは外部環境の影響を受けやすく、エラーが発生しやすい。このため、量子誤り訂正は量子コンピューティング実用化の中核課題とされてきた。
Googleは2024年にWillowを公開し、量子誤り訂正の指数関数的な改善や高速演算の成果を示した。さらに2025年には、世界最速のスーパーコンピュータを上回る計算性能を実証し、特定の計算で1万3000倍の速度を達成したと明らかにしている。
今回の早期アクセスプログラムは、こうした性能を研究現場で活用することを想定した枠組みだ。プログラムは2025年12月に始まり、研究チームはWillow上で実施する実験計画を提出し、審査を経てアクセス権の付与が決まる。
当初は、実験計画書の提出期限が2026年5月15日、採択結果の通知期限が7月1日とされていたが、King's College Londonは5月26日に採択が公表された。
同大学は、今回のアクセス権を基に基礎研究にとどまらない応用可能性も探る方針だ。応用先としては、より高性能な太陽電池、効率的な電力網システム、疾病治療に向けた新薬探索などを見込む。ただ、今回公表された研究の直接的な焦点は、あくまでニューロンの量子的類似体のモデリングにある。
エレノア・クレイン博士は、Googleと再び協力できることを歓迎したうえで、量子コンピュータが従来型コンピュータの能力をどこまで超えられるのか、その限界に挑む取り組みだと述べた。また、この種の複雑なシミュレーションを実行できるハードウェアは世界的にも限られているとして、NQCCとGoogleへの謝意を示した。
Google側も研究支援の姿勢を示した。Google Quantum AIの最高執行責任者カリナ・チャウ氏は、量子コンピューティングには、従来型コンピューティングが根本的な限界に直面する分野で科学の進展を後押しする可能性があると説明した。そのうえで、King's College LondonがNQCCの支援の下で有望な研究提案を示したと評価し、量子コンピューティング資源と専門知見の提供を通じて研究を加速させる考えを示した。
今回の採択により、Googleが量子チップの実験室レベルの実証にとどまらず、外部研究機関による実際の研究課題へ活用の場を広げ始めたことがうかがえる。NQCCが窓口となることで、Willowへのアクセスが制度化されたプログラムとして運用されている点も明確になった。今後、追加の採択結果や研究成果が公表されれば、Willowの活用領域はさらに具体化しそうだ。