リトアニアが、小型低軌道衛星の需要拡大を追い風に、欧州宇宙産業の新たな拠点として存在感を強めている。政府は宇宙産業の国内総生産(GDP)比を2027年までに1%へ引き上げる目標を掲げており、現地企業のNanoAvionicsも大型受注を足掛かりに量産体制の強化を進める。
英TechRadarが5月31日(現地時間)に報じたところによると、宇宙産業はこれまで静止軌道の大型衛星が中心だったが、足元では低コストで大量生産しやすい小型衛星コンステレーションへのシフトが進んでいる。こうした流れの中で、製造能力とスタートアップ支援策を備えたリトアニアに注目が集まっている。
その象徴的な事例がNanoAvionicsだ。同社はこのほど、衛星通信企業Meridian Spaceの低軌道衛星ネットワーク構築計画で、280機の衛星供給契約を受注した。欧州の小型衛星案件としても有数の規模となる。
背景には、低軌道衛星コンステレーションの拡大がある。従来は静止軌道に配置する少数の大型衛星に依存する構造だったが、近年は数百機から数千機規模の小型衛星をネットワークとして運用する方式が急速に広がっている。
この方式は、より広域の通信サービス提供や地球観測の高頻度化につながる。開発コストや構築期間を抑えやすい点も大きく、民間企業や新興国にとって参入しやすい市場環境を生み出している。
NanoAvionicsは、10kg級のCubeSatから500kg級の小型衛星まで対応するモジュール型プラットフォームを展開する。これまでに60機超の打ち上げ実績があり、衛星の主要部品の最大80%を内製化することで、品質管理とサプライチェーンの安定確保につなげているとしている。
NanoAvionicsの米国事業開発マネジャー、アンドリュー・スウェイン氏は「小型衛星は宇宙産業のコスト構造そのものを変えている」と述べた。民間企業にとっては初期投資を抑えながら事業化を急げるほか、政府にとっても比較的低コストで独自の宇宙インフラを構築する機会になるという。
特にコンステレーション型は、耐障害性の面でも優位性がある。少数の大型衛星に依存する場合は単一障害が全体のサービスに影響しかねないが、多数の小型衛星を分散配置すれば、一部に不具合や損失が生じてもシステム全体への影響は限定的に抑えられる。
リトアニア政府は、こうした産業構造の変化を成長戦略の柱に据える。経済革新省のエドビナス・グリクシュタス長官は「Nord SecurityやVintedといったユニコーン企業の誕生は偶然ではない」と強調し、「過去15年間にわたり、デジタルインフラと技術人材の育成に継続的に投資してきた結果だ」と述べた。
リトアニアは直近3年間で、レーザー技術、情報通信技術(ICT)、衛星製造と関連部品産業を含む先端技術分野が170%成長したとしている。NanoAvionicsも今回の大型契約を受け、首都ビリニュスに新たな生産施設を建設し、2030年までにエンジニアを中心とする専門人材を約100人追加採用する計画だ。
現在、リトアニアでは40社超の宇宙関連企業が活動している。欧州宇宙機関(ESA)のビジネスインキュベーションセンターを軸に起業エコシステムも広がっており、ESAの準加盟国資格を持つほか、フランス国立宇宙研究センター(CNES)や英国宇宙庁(UK Space Agency)との連携も強化している。
業界では、今後の低軌道衛星市場では単純な技術力だけでなく、生産効率や供給能力が競争力を左右するとみる向きが強い。どれだけ多くの衛星を、短期間に安定して供給できるかが重要になっているためだ。
リトアニアは、衛星開発そのものよりも量産を支える製造基盤の整備に軸足を置く。低軌道衛星時代の本格化を前に、バルト海の小国が欧州宇宙産業の新たなハブとして定着できるかが注目される。