Samsung Electronicsが、メモリ、ファウンドリー、先端パッケージングを一体で提供する「AIファクトリー」を前面に打ち出し、ファウンドリー事業の立て直しを急いでいる。TSMCの3ナノ工程がフル稼働に近い状態となり、先端工程のウエハー価格上昇観測も強まる中、単一ベンダー依存を避けたいファブレス各社の需要を取り込む構えだ。2026年後半の2ナノ量産とターンキー受注の具体化が、今後の焦点となる。
業界では、TSMCへの発注集中がSamsung Electronicsにとって新たな商機になっているとの見方が出ている。AI半導体需要が急増する一方、TSMCの先端工程は供給余力が乏しく、単価上昇も見込まれる。このため、ファブレス各社の間では代替先を探す動きが広がっている。歩留まりや顧客開拓で苦戦してきたSamsung Electronicsにとって、市場環境の変化は追い風になり得る。
Samsung Electronicsは5月30日、1〜3月期決算のカンファレンスコールで、「メモリとファウンドリーをターンキーで調達したい顧客需要が増えている」と説明した。あわせて、「複数のHPC顧客と2ナノ、4ナノ工程について協議を進めており、近く一部顧客との2ナノ契約が具体化する見通しだ」と明らかにした。
背景にあるのは、TSMCに集中したファウンドリー市場の構図だ。TrendForceによると、TSMCの3ナノ(N3)工程の稼働率は100%近く、AppleやNVIDIAの発注を背景に、今後1〜2年は供給逼迫が続く見通しという。TrendForceは、TSMCが3ナノおよび5ナノの先端工程ウエハー価格を5%以上引き上げると予測しており、ファブレス各社の採算悪化やチップ価格上昇圧力につながる可能性を指摘している。
コスト上昇とサプライチェーンリスクが同時に強まる中、代替調達先を確保しようとする動きも加速している。Counterpoint Researchは、AI半導体需要の拡大を受け、チップ設計企業がTSMCへの単一依存リスクを分散する流れが強まっていると分析した。そのうえで、2ナノのGAA工程ロードマップを持つSamsung Electronicsを、有力な代替調達先として評価している。
Samsung Electronicsが差別化要因として掲げるのが、2025年に発表したAIファクトリー構想だ。ファウンドリーでの受託生産に加え、高帯域幅メモリ(HBM)の実装から先端パッケージングまでをワンストップで提供する。設計から最終パッケージまでの期間短縮と物流コストの削減を通じ、TSMCの価格上昇に直面するファブレス各社に代替案を示す狙いがある。
この構想は、HBM4時代の到来と重なって注目を集めている。証券業界では、HBM4世代ではメモリとファウンドリーの連携、すなわちロジックダイの統合が一段と重要になるとみられている。ファウンドリー、HBM、パッケージングを自社で手掛ける総合半導体メーカー(IDM)として、Samsung Electronicsのワンストップ型ターンキーソリューションは、顧客のチップ開発期間を約20%短縮し、サプライチェーン管理コストの低減にもつながるとの見方がある。
Samsung Electronicsは、2026年7〜9月期からHBM4の売上高がHBM全体の売上高の半分を超えるとの見通しも示した。2月にHBM4の量産出荷を開始したのに続き、次世代品のHBM4E 12層サンプルについても、グローバル顧客への供給を始めた。HBM4E 12層は容量48GBで、ピン当たり16Gbpsに対応する。量産中のHBM4と同じく、1c DRAMと4ナノのベースダイの組み合わせを採用した。メモリからロジックダイまでを内製化できる点が、ターンキーモデルの基盤になっているという。
生産体制の整備も進める。Taylor工場1では5月23日に装置搬入式を開き、2026年の稼働、2027年の量産開始を目標に据えた。稼働後は2ナノの生産能力を段階的に拡大する計画だ。一方で、競争力の低い工程は整理する。CISとディスプレイ駆動チップ(DDI)は17ナノへ生産能力を振り向け、8インチで量産している電源管理半導体(PMIC)やDDIなどは順次ライン閉鎖を進めている。
もっとも、こうした取り組みが実際の受注拡大につながるかはなお見極めが必要だ。Samsung Electronicsは2ナノ契約の具体化を予告したものの、顧客名や数量は明らかにしていない。業界関係者は「AIファクトリーが軌道に乗れば、TSMC一強の構図に対する現実的な代替案になり得る。ただ、受注獲得が遅れれば、構想先行に終わる可能性もある」と話している。