SpaceXが企業価値1兆ドル超で新規株式公開(IPO)を検討する中、AI事業の赤字拡大やStarship開発の先行き不透明感、約300億ドルの債務が主要リスクとして浮かび上がっている。米ITメディアのThe Vergeが30日(現地時間)に報じた。
報道によると、同社の証券届出書では成長戦略とあわせて、財務負担、関連当事者取引、議決権の集中といった論点が示された。
届出書でSpaceXは、総潜在市場(TAM)を28兆5000億ドルと試算。このうち26兆5000億ドルをAI応用市場と位置付けており、事業の重点が宇宙分野よりもAI領域に大きく寄っている構図がうかがえる。
2025年の設備投資は約130億ドルで、このうちおよそ3分の2をAIインフラの拡充に投じた。一方、AI部門は同年に60億ドルの営業損失を計上し、売上高は32億ドルにとどまった。2026年1〜3月期のAI関連売上高(XとxAIを含む)も8億1800万ドルだった。
AI分野での競争力を巡っては懸念もある。SpaceXは、大規模クラウドコンピューティング設備をAnthropicに年間150億ドル規模で貸し出していることが明らかになった。
一方で、AIモデル「Grok」については、届出書で世界トップ級のフロンティアモデルの一つと位置付けた。イーロン・マスク氏は3月、xAIは当初から適切に構築されておらず、基盤から作り直していると述べていた。
また、OpenAI共同創業者のグレッグ・ブロックマン氏とイリヤ・サツケバー氏が2018年、マスク氏はAIと汎用人工知能(AGI)を十分に理解していなかったとみていた点にも改めて触れた。
AIコーディング企業「Cursor」との取引も負担要因として挙げられた。取引が成立した場合、既存株主は600億ドル規模の希薄化を受け入れる必要があるという。
仮に取引が成立しなかった場合でも、SpaceXはCursorに15億ドルを支払うほか、80億ドルを超えるコンピューティング資源を提供しなければならないとした。
宇宙事業の中核であるStarshipにも不透明感が残る。SpaceXは2026年下期、Starshipで次世代のV3衛星を投入し、1回の打ち上げで最大60基を投入できるとしている。
ただ、届出書の公開から2日後にあたる5月22日の試験飛行では、エンジン1基が故障し、ブースターは帰還中に爆発した。
一方、実質的な資金創出源として挙げられるのがStarlinkだ。Starlinkの売上高は前年に110億ドルを超えたが、加入者1人当たりの売上高は約25%減少した。
財務面の負担も重い。SpaceXがリスク要因として明記した債務は約300億ドル。上場前には200億ドルのブリッジローンで一部を借り換え、その過程で10億ドルの期限前返済手数料を支払った。
契約上、IPOで調達した最初の200億ドルは、この債務の返済に優先的に充てる必要がある。さらに、xAIの買収に伴い、15億ドルの与信枠でテクニカルデフォルトに該当したことも明らかになった。
コーポレートガバナンス面でも、一般投資家に不利な構造が指摘されている。マスク氏はSpaceXの議決権の80%を握っており、仲裁条項の存在によって証券関連訴訟が難しくなる可能性もある。
また、ナスダックの規定変更により、上場後15日でNasdaq 100に組み入れられる可能性も指摘されている。実現すれば、指数連動資金による機械的な買い需要が入る可能性がある。