Hg1223を用いた今回の研究は、工程制御によって常圧下の超伝導転移温度記録を更新した点が注目される。写真=Shutterstock

米Houston UniversityとTexas Center for Superconductivityの研究チームは、水銀系銅酸化物セラミックス「Hg1223」を用い、常圧下で151K(約マイナス122℃)の超伝導転移温度を達成した。従来の133Kを18K上回り、常圧での記録更新は33年ぶりとなる。

この成果は28日、オンラインメディアのGIGAZINEなどが伝えた。高性能な超伝導体の多くは超高圧環境でのみ特性を保つため、産業利用には制約があった。今回の研究は、一般的な大気圧下で記録を更新した点に意義がある。

超伝導体は、一定温度以下で電気抵抗がゼロになる物質。転移温度が高いほど冷却コストや装置負担を抑えやすく、実用化に近づくとされる。

研究チームが採用したのは「圧力クエンチ(pressure quench)」と呼ぶ手法だ。高圧下で形成された結晶構造や電子状態を、圧力を取り除いた後も維持することを狙う。Hg1223に強い圧力を加えて超伝導特性を高めたうえで、特定温度まで冷却した状態で圧力を急速に除去した結果、高圧下で得られた特性を常圧でも保てたという。

実験では、大気圧の最大30万倍に相当する圧力を用いた。圧力を除去した後も151Kの転移温度は約2週間維持され、異なる5つの試料で同様の結果を再現した。研究を主導したHouston Universityのチンウ・チュは、この手法について「高圧下でのみ得られる特性を、常圧でも維持できる可能性を示した」と説明している。

もっとも、常圧での室温超伝導にはなお大きな隔たりがある。今回の記録は約マイナス122度で、一般的な室温とは約140度の差がある。研究チームも、今回の成果が直ちに室温超伝導の実現を意味するものではないとしている。

それでも、常圧基準の記録を33年ぶりに塗り替えた意義は小さくない。冷却コストの低減や応用範囲の拡大に向けた一歩前進といえそうだ。

超伝導体は、送電、MRI、核融合、量子コンピューティング、高速電子デバイスなど幅広い分野で中核技術とされる。チンウ・チュは、送電時の電力損失は大きいとして、超伝導体の活用拡大がエネルギー効率の改善や環境負荷の低減につながる可能性を強調した。

今後の焦点は、圧力クエンチの効果をより長期間維持できるか、他の材料系にも適用できるか、さらに常圧下で転移温度を引き上げられるかにある。今回の成果は、常圧超伝導体の開発競争を改めて活性化させる可能性がある。

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