韓国政府が、人工知能(AI)を科学技術研究に本格導入し、国家的な難題の解決を目指す「K-ムーンショットプロジェクト」を始動した。韓国科学技術情報通信部は27日、12大国家ミッションを統括するプログラムディレクター(PD)12人を委嘱し、関係省庁横断で事業を進める「K-ムーンショット推進団」を発足させた。
K-ムーンショットは、AIの活用によって研究開発(R&D)の生産性を2030年までに2倍に高めるとともに、2035年までに国家競争力の強化に必要な12の重点課題の解決を目指す構想だ。研究現場へのAIツール導入支援にとどまらず、AIを、研究開発の手法そのものを変える中核インフラと位置付ける。
「ムーンショット」は、月面着陸のように実現難度は高い一方、成功時の波及効果が大きい挑戦的目標を指す。K-ムーンショットも同様の考え方に基づき、従来の研究開発体制では解決に長い時間を要してきた科学技術上の難題を、AI基盤とする研究手法で早期に解決することを狙う。
同プロジェクトは、米ホワイトハウスが2025年11月に発表した「Genesis Mission」から着想を得た。Genesis Missionは、AIを活用して科学的発見と技術開発のスピードを高める米政府主導の科学技術革新構想とされる。
政府が定めた12大国家ミッションは、単一の省庁や研究機関だけでは対応が難しい大型課題で構成する。新薬開発の10倍高速化のほか、脳インプラントの商用化、韓国型小型核融合実証炉の開発と発電実証、宇宙データセンターの基盤技術確保と実証、汎用フィジカルAIモデルとコンピューティング基盤の国産化などを挙げた。対象分野には、太陽電池、バイオ、宇宙、素材、半導体、量子など、国家競争力に直結する領域が含まれる。
政府は、AIの導入によって科学技術開発のスピードを大幅に引き上げられるとみている。膨大な研究データをAIで分析し、実験条件を最適化することで、研究者が試行錯誤に費やす時間を減らせるためだ。
例えば新薬開発では、候補物質の探索や毒性予測、臨床適用可能性の検討にAIを活用し、開発期間の短縮を見込む。従来のR&D事業が個別課題中心で運営されてきたのに対し、K-ムーンショットでは国家が先に解決目標を示し、その達成に必要な技術、人材、予算、政策手段を集中投入する方式を採る。
今後はPDを軸に、各ミッションの推進スピードを高めるとともに、関係省庁と研究現場の連携体制を早期に定着させる方針だ。成果創出にはAIインフラとデータ活用基盤の整備も欠かせず、大規模研究データ、高性能コンピューティング資源、分野別の専門モデルが必要になるとしている。
データと計算資源の支援は、国家科学AI研究センター(NAIS)が担う。GPUプラットフォームとデータプラットフォームを通じて科学技術研究を支援し、科学AI向けオペレーティングシステムのプラットフォーム開発と普及も進める。NAISはすでに設立済みで、近くセンター長を正式選任したうえで本格運営に入る予定だ。
委嘱されたPD12人は、各ミッションの総括責任者を務める。目標設定から課題企画、研究遂行の管理、成果活用まで、全工程の調整を担う。
同日発足した推進団は、ペ・ギョンフン副首相兼科学技術情報通信部長官が団長を務め、K-ムーンショット政策全体を統括する。PDの推進実績を点検するほか、関係省庁との政策連携やR&D協力を通じて、科学技術行政の総力を結集する役割を担う。
ペ副首相は「K-ムーンショットを通じて産業現場の課題を解決していく」と述べ、「総力を挙げてAI革命の時代を切り開く」と語った。
発足式にあわせて開かれたワークショップでは、今後の実行課題についても議論した。参加者は、ミッションごとの推進方針や連携の進め方、今後の日程を共有し、具体的な実行戦略を検討した。
ペ副首相はさらに、「AI覇権競争を先導するにはAI競争力の確保も重要だが、それを通じて何を成し遂げるのかという究極の目標こそ重要だ」と強調。「人類が直面する問題を解決するという使命感を持って、K-ムーンショットを推進する」と述べた。