ドナルド・トランプ米大統領が、個人ウォレット、DeFi(分散型金融)プラットフォーム、ミームコイン、企業のビットコイン保有戦略まで、暗号資産分野で幅広い利害関係を持っている実態が明らかになった。関連資産の価格下落が続くなか、政権の政策運営との利益相反を巡る議論も強まっている。
ブロックチェーン専門メディアのThe Crypto Basicは26日(現地時間)、現職の米大統領が国家の暗号資産政策を主導しつつ、これほど多岐にわたるデジタル資産の利害関係を持つのは極めて異例だと報じた。
トランプ氏を巡る暗号資産関連の利害は、大きく分けて個人ウォレット、World Liberty Financial(WLFI)、トランプ一族の名を冠したミームコイン、Trump Media & Technology Group(DJT)によるビットコイン保有戦略の4つに整理できる。資産開示資料によると、トランプ氏は100万〜500万ドル相当のイーサリアム・ウォレットを保有しているが、正確な残高やアドレス、取引履歴の全容は公表されていない。
オンチェーン分析会社Arkham Intelligenceが公表したトランプ関連ウォレットの推計価値は、2025年に大きく縮小した。2025年1月1日時点で1016万ドルだったが、同年12月31日には93万9590ドルに減少し、足元では約62万3000ドルまで低下したという。
保有残高の中心はTROG、USDC、WeFiで、TRUMPは約2万ドル、イーサリアムは約1万4000ドルとされた。TROGは、MAGA帽をかぶったカエルをモチーフにしたミームコインで、第三者が政治家のウォレットに任意のトークンを送り込める実態を示す例として挙げられている。
議論の中心にあるのがWLFIだ。2024年9月に始動したイーサリアム基盤のDeFiプラットフォームで、トークン販売を通じて5億5000万ドル超を調達した。報道では、この過程でトランプ一族に約10億ドルの利益をもたらしたとされる。
関連法人は、WLFIトークン販売の純利益の75%に加え、ステーブルコイン関連収益の一部を受け取る仕組みとされる。
こうした構造には批判も出ている。コーネル大学のエスワル・プラサド教授は「現実離れしている」と指摘し、トランプ一族が利益相反の懸念が大きい事業から利益を得る一方、外部投資家には十分還元されていないと批判した。
WLFIを巡っては、価格推移や流通構造への不満もくすぶる。TRON創業者のジャスティン・サン氏は、トランプ氏の大統領選勝利後に7500万ドルを投じた。WLFIは2024年10月に0.015ドルで初回販売され、2025年初めの第2回販売では0.05ドルで売り出された。
ただ、現在価格は約0.06ドルにとどまり、高値の0.46ドルからは約87%下落した。2026年5月時点でも、0.05ドルで購入した投資家は保有分の80%をなお売却できない状態にあるという。
トランプブランドを前面に出したミームコインも、市場の変動性を高めた要因とされる。ソラナ基盤のミームコイン「Official Trump」(TRUMP)は、2025年1月17日のローンチ後、2日で75ドルを突破し、時価総額は145億ドルを超えた。
だが、足元の価格は2.04ドル前後まで下落した。総供給量10億枚のうち8億枚は、トランプ関連企業のCIC Digital LLCとFight Fight Fight LLCが保有しており、3年かけて段階的に市場に放出される仕組みとされる。
規制と倫理を巡る論争も続く。上院常設調査小委員会は今月初め、Fight Fight Fight LLCに対し、倫理上の問題に関する資料提出を要求した。エリザベス・ウォーレン上院議員は、TRUMPコインが「トランプ個人を大幅に富ませ、暗号資産業界が同氏に資金を流し込む経路を開いた」と批判している。
メラニア・トランプ氏の名を冠した「MELANIA」も同様の値動きをたどった。2025年1月19日のローンチ直後に急騰し、一時は80億ドル超の評価額を付けたが、その後急落し、現在の時価総額は約8845万ドルに縮小している。
ローンチ時には、特定のウォレットが供給量の最大89%を保有していた可能性が指摘された。分散型ガバナンスの仕組みも備えていないとされる。
企業レベルでのビットコイン・エクスポージャーも大きい。DJTは2025年7月、ビットコインと関連有価証券を約20億ドル保有していると発表した。2026年3月時点の保有資産は9542.16BTCと7億5610万CROだった。
DJT株はビットコインへの間接投資手段としても注目される一方、同社は1万1542BTCを平均11万8522ドルで取得し、足元では約4億5500万ドルの評価損を抱えていると推計された。2026年1〜3月期の純損失も4億59万ドルに達した。
トランプ一族と結び付くもう1つの軸が、ビットコイン採掘企業American Bitcoin(ABTC)だ。採掘企業Hut 8が2025年3月に設立した同社は、エリック・トランプ氏とドナルド・トランプ・ジュニア氏が後押ししたとされる。
ABTCは現在7500BTCを保有しており、2026年3月にはアルバータ州ドラムヘラーの施設にASIC(特定用途向け集積回路)採掘機1万1298台を追加し、採掘能力を約12%引き上げる計画を示した。
こうした事業拡大は、トランプ政権の暗号資産に前向きな政策とも重なり、論争を一段と広げている。トランプ氏は2025年3月6日、戦略的ビットコイン備蓄と「米国デジタル資産備蓄」の創設に向けた大統領令に署名した。デービッド・サックス大統領府AI・暗号資産担当責任者は、これを暗号資産のための「デジタル・フォートノックス」と表現した。
政権はまた、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の開発禁止に加え、米証券取引委員会(SEC)内の専任タスクフォース設置も進めた。
こうした政策変更は市場にも素早く反映された。ビットコインは2024年11月の大統領選勝利後、数週間で9万ドルを突破した。一方で、トランプ関連プロジェクトを巡る利益相反への懸念も強まった。
とりわけ注目を集めたのが、アブダビ政府と結び付きのある企業がWLFIの持ち分49%を約5億ドルで取得した点だ。その後、米国がアラブ首長国連邦(UAE)に先端半導体チップへのアクセスを認める計画を承認したこともあり、利益相反を疑う見方が出ている。
投資家の立場からみると、構造的なリスクも鮮明だ。TRUMPは高値から97%超、MELANIAは約99%、WLFIは約89%下落した。いずれも供給の大半がトランプ関連主体に集中しており、一般投資家より内部関係者に有利な設計だとの指摘が出ている。
リチャード・ブルーメンソール上院議員(民主党)が率いる上院常設調査小委員会は、TRUMPとWLFIを含むトランプ氏の暗号資産事業全般について、外国資金の流入やインサイダー取引、大統領の利益相反条項に抵触する可能性などを調べている。
トランプ関連の暗号資産事業は、個人保有、DeFi、ミームコイン、企業のビットコイン戦略が一体化している点で異例だ。政策決定権と直接的なデジタル資産の利害が重なり、市場構造と倫理の両面で論争を広げている。