写真=GS Caltex DXセンター長のイ・ウンジュ専務

AIトランスフォーメーション(AX)が広がる中、IT部門を介さずに現場が必要なAIサービスやエージェントを開発できるよう支援する企業の動きが強まっている。それに伴い、IT部門に求められる役割も変わりつつある。

石油精製会社のGS CaltexでDXセンター長を務めるイ・ウンジュ専務は、AWSが開催した「AWS Summit Seoul 2026」の会場で取材に応じ、AX時代に重要性が増すIT部門の役割として、現場担当者への教育とAI活用のモニタリングを挙げた。従来はIT部門がサービス開発そのものを担う場面が多かったが、今後は導入後の利用状況を把握し、改善を支援する役割の比重がさらに高まるとの見方を示した。

同氏は、現場で生まれたサービスがどの程度使われているかを継続的に確認し、課題があれば改善につなげることが、IT部門の中心業務になりつつあると説明した。

こうした変化の背景には、GS Caltexの事業構造がある。売上高は44兆ウォン規模に上る一方、従業員数は約3000人、営業利益は1兆ウォン未満で、技術を通じた効率化が欠かせないという。DXやAXという言葉が広く使われる以前から、同社では技術活用が重要な経営テーマであり、特にデータ活用に力を入れてきた。

イ・ウンジュ専務は、同社が大量のデータを保有しており、これを活用できれば生産の最適化につながると説明する。AIを活用した新サービスの開発に加え、約60年前の設計図面のデジタル化も継続して進めてきたという。データ品質はなお十分とは言えないものの、蓄積を重ねながら有効活用の道を探っているとした。

GS Caltexは2022年にDXセンターを設立し、DX戦略を本格始動した。同社の戦略は「ボトムアップ・ファースト」に要約できる。経営主導のトップダウン型とは異なり、現場担当者が業務に必要なものを自ら考え、作り、社内で共有する文化の定着を重視する考え方だ。

AXでもこの方針は変わらない。現場担当者がロウコード、RPA、機械学習、生成AIなどを使い、自ら必要なAIアプリを作成し、業務で活用できる環境づくりを優先している。イ・ウンジュ専務は、ボトムアップの本質は上から指示して動かすことではなく、現場が自律的に作れる仕組みを整えることにあると話す。リーダーシップの役割も、そうした構造を整える点にあるという。

生成AIの普及によって、現場主導のアプリ開発はさらに加速している。契約書作成、採用候補者のスクリーニング、購買情報の確認など、用途別のアプリが現場から次々に生まれ、社内に広がっているという。

同社はAmazon Bedrockを基盤に生成AIプラットフォームを構築した。加えて、Amazon SageMaker Canvasを通じ、コーディングなしでも実務担当者が機械学習サービスを開発できる環境を提供している。

すでに活用事例は広がっており、従業員約3000人が約1900件のアプリを作成した。数百回以上利用されているアプリも約60件あるという。全社で共同利用しているアプリは10件で、そのうち9件は従業員が自ら開発したものだとした。

現場で生まれるサービスの量が増えただけでなく、事業面でも成果が出始めている。マーケティング部門では、顧客の声(VOC)データをオントロジーと生成AIを基盤に自然言語で分析できる環境を整備した。これが、給油、洗車、電気自動車の充電などのモビリティサービスを提供する同社のモバイルアプリ「Energy Plus」の利用拡大につながったという。

イ・ウンジュ専務によると、Energy Plusの利用者数は15万人から240万人に増加し、アプリの評価も1.6点から4.6点に改善した。

こうした取り組みを進める中で、GS CaltexのIT部門の重心も変わってきた。現場が必要とするものを開発して提供する役割から、現場が自律的に開発し活用できる環境を整える役割へと軸足を移している。もっとも、支援すべき課題はなお多いという。

その一つが教育だ。AIによってアプリ開発のハードルは下がったとはいえ、現場が実際にAIを使ってアプリを作り、業務に生かすには依然として参入障壁がある。イ・ウンジュ専務は、教育は重要だが、実施すればすぐ成果が出るものではないとし、現場の業務に即した具体的な内容が必要だと強調した。

単に技術知識を教えるのではなく、できるだけ学びやすい技術を提供する方針も取っている。技術のハードルが下がれば、担当者の交代時に起きがちな業務の断絶も大きく減らせるためだ。例えば、Pythonのクエリでデータを扱うのではなく、自然言語に近い形でSQLを記述できるようにすれば、新任担当者でも適応しやすいと説明した。

教育期間も現場の実情を踏まえて設計している。生成AIの進化により、学習期間を大きく短縮できるようになったという。機械学習では以前は12週間かかる教育もあったが、現在は1日の研修を受けて業務に活用できるケースもある。2023年から教育を進めてきたが、足元では受講希望者が当初想定の2倍以上に増えているとした。

もう一つの重要テーマがモニタリングだ。現場がアプリを作り、継続的に活用するのが理想だが、実際にはさまざまな理由で定着しないケースもある。そのため、現場で生まれたアプリがどのように、どれだけ使われているかを把握し、問題があれば解決を支援することが、今後のIT部門にとって最も重要な役割になるとの認識を示した。

GS CaltexのDXセンターでは、利用者数や稼働アプリ数、利用されなくなったアプリの有無などを日次・週次で確認している。使われなくなったアプリについては、現場担当者へのインタビューを通じて理由を把握し、課題解決を支援する取り組みの比重を高めているという。

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