企業のAI本番導入が進む中、クラウドだけに依存せず、AIワークロードを社内で処理するためのインフラ需要が拡大している。コストやデータ主権、プライバシーの観点から、オンプレミスとクラウドを組み合わせるハイブリッド基盤を現実解とみる動きが強まっている。
関連業界によると、企業はデータ管理とコスト管理の両面で、単純にクラウドから離れるのではなく、オンプレミスとクラウドそれぞれの強みを生かすハイブリッド戦略を重視している。
こうした流れの中で、一般的なPCより高い性能と安定性を備えたワークステーションへの関心も高まっている。ワークステーションは、企業がAI導入で重視するコスト、処理速度、セキュリティの3要素に対応しやすく、企業向けAIインフラの有力な選択肢として存在感を強めている。
ワークステーションを活用すれば、データを社外に出さずに自律型AIエージェントを実行できる。変動の大きいクラウド利用料を、予見しやすいインフラ投資に置き換えられる点も利点だ。
企業がAIワークロードの配置先を検討する際には、データ主権や規制遵守、AI開発のスピードと機動性、拡張性やリソースの柔軟性が主な判断材料になる。こうした条件が、ワークステーション活用の余地を広げている。
AI開発の各段階でワークステーションの活用も進んでいる。Dell Technologies、Intel、IDCが共同でまとめたレポート「ワークステーションで実現する未来志向のコンピューティング」によると、利用率はデータ準備が62%、基盤モデルの学習が60%、モデルの微調整が59%、AIの導入が44%、推論が29%だった。
IDCの調査では、韓国企業の72%が今後5年以内にワークステーションの保有台数が増えると見込んでいる。ワークステーション上でAIをローカル実行する利点としては、データセキュリティと個人情報保護に加え、低遅延の現場推論による業務の機動性が挙がった。
同じ調査では、アジア太平洋地域の企業の97%が、ワークステーションについて、AIや機械学習など先端技術の検証を可能にし、チームの能力を高める高性能デバイスだと評価した。
ワークステーションは、データを外部ネットワークにさらさず社内で直接処理できるため、医療、金融、政府分野などで求められる規制対応や個人情報保護要件にも適している。
低遅延で処理できる点も強みだ。IDCによると、計算負荷の高いAI関連業務において、ワークステーション利用者の生産性が非利用者を上回るとの見方に、アジア太平洋地域の組織の94%(韓国は93%)が同意した。
航空・宇宙分野のデータを直感的な3D可視化資料に変換するXRソリューションを提供するDauntless XRは、Dell Technologiesの高性能ワークステーションを導入した。これにより、コンパイル時間を85%短縮し、AIモデルの学習速度を150%高め、ユーザーデータの処理時間を3分から30秒に短縮したという。
AIワークロード向けワークステーションを巡っては、関連各社の動きも活発だ。Dell Technologiesは、AIワークロードの特性や組織の運用環境に応じて選択できるワークステーション製品群の展開を進めている。
「Dell Pro Max Tower T2」は、最新のIntel Core Ultraプロセッサとエンタープライズ向けGPUオプションを採用し、複雑なAIモデルの学習、データ分析、3Dレンダリングなど高負荷ワークロードに対応する。
「Dell Pro Precision 7 16」はモバイルワークステーションで、高性能CPUとプロ向けGPUを搭載する。移動中でも、AI開発やCAD設計、コンテンツ制作、データ分析といった負荷の高い業務に対応できるとしている。
Gartnerによると、2026年までに企業のAIプロジェクトが失敗する要因のかなりの部分は、インフラの不適合やガバナンス不足に起因する見通しだ。AI投資の費用対効果を高めるうえで、IT環境のモダナイゼーションが重要な条件として浮上している。
ワークステーション導入でも事情は同じだ。Dell TechnologiesとIDCのレポートによると、アジア太平洋地域の企業は、ワークステーション導入を阻む最大の要因として「社内のITポリシーまたは標準」を挙げた。
ワークステーションを導入しない理由としては、41%が「主要なPC調達先がワークステーション製品を扱っていない」と回答した。21%は「ワークステーションとPCの価値の違いが明確でない」、16%は「コスト負担への懸念」を理由に挙げた。
これに対し関連業界は、総所有コスト(TCO)の観点からみれば、ワークステーションは単に高価な機器ではないと強調する。初期導入費用の印象とは異なり、耐久性の高さや保守コストの抑制、コンピューティング費用の予見性によって、長期的には高いROIが見込めるという。
継続的に発生するクラウドGPU費用と比べると、経済性の面ではワークステーションへの一括投資(CapEx)が優位だとする分析もある。
IDCの調査では、アジア太平洋地域の企業の63%が、今後5年以内に全デバイスに占めるワークステーションの比率を引き上げる計画だと答えた。
Dell Technologiesのアジア太平洋・日本・中国(APJC)地域クライアントソリューション・グループでバイスプレジデントを務めるジャシンタ・クア氏は、「企業向けAIの未来は、エンドポイントかクラウドかという二項対立ではない。コンピューティング全体のレイヤーにわたって知能的に分散されることにある。各ワークロードは、その特性に合った最適な場所で実行されるべきだ」と述べた。
そのうえで同氏は、「ワークステーションは、専門性が高く計算負荷の大きいワークロードに不可欠な性能と統制力を提供する。いまやワークステーション戦略とAI戦略は一体化しつつある。この流れを早期に捉えて対応した組織こそ、AI活用拡大で優位に立てる」と語った。