企業向けソフトウェア市場で、AIエージェント時代の主導権を巡る争いが激しさを増している。焦点の1つに浮上しているのが、AIエージェントの精度や運用コストを左右するデータ基盤、なかでもシマンティックレイヤーの支配権だ。
その象徴的な動きとして、MicrosoftがPower BIと外部データ管理ツールとの連携を制限したことが波紋を広げている。The Informationによると、Databricksは3月初旬、同社プラットフォーム上の情報を可視化ツールとより簡単に接続できる新機能のテストを始めたが、Microsoftがこれを遮断したという。これにより、Databricksの顧客は、Fortune 500企業の大半が利用するとされるPower BIに接続できなかった。
Databricksが試験導入しようとしていた機能の狙いは、Power BI利用企業がデータ管理の基盤としてMicrosoftの「Fabric」ではなくDatabricksを使い、その上でAIエージェントを構築しやすくすることにあった。Fabricを介さない運用を後押しする内容であり、Microsoftにとっては看過しにくい動きだったとみられる。
Microsoftは、Databricksを含むデータ管理ツールとのPower BI接続を制限した理由について、信頼性を挙げている。一方、市場ではこれを、シマンティックレイヤーの統制権を巡る争いの一環と受け止める見方が強い。
AIエージェントが適切に機能するには、明確で構造化されたデータが欠かせない。The Informationは、文脈情報を持つデータ活用を支えるシマンティックレイヤーが、多段階の業務を正確に処理するAIエージェントの開発で中核的な役割を担う可能性があると報じた。
一部の業務ソフト企業が、他社製エージェントによる自社製品内の顧客データへのアクセスを制限したり、有償化したりしているのも、シマンティックレイヤーを見据えた布石になり得る。
Microsoftは、データ管理ソフト市場でSnowflakeやDatabricksと競合している。AIエージェント向けの高速データ処理を支援するスタートアップLakeSailのCEO、シェハブ・アミン氏はThe Informationに対し、「Databricksコネクターを切ったという事実だけでも、Microsoftが次世代プラットフォーム戦争の勝負所をどこに見ているかは明らかだ」と語った。
同氏はさらに、「過去30年間のMicrosoftの戦略は、顧客が業務を始める最初の製品を押さえ、そこを起点に他の製品群へと囲い込むことだった」と指摘した。
AIエージェントは、企業向けソフトウェア業界の新たな成長ドライバーとして期待される一方、既存事業を脅かす可能性もある。顧客が社内データを、そのデータを保有するソフト企業ではなく外部企業のAIで分析するようになれば、既存ベンダーの競争優位は揺らぎかねない。Microsoft株が昨年の高値から25%下落した背景にも、こうした懸念が無関係ではないとの見方がある。
Microsoft自身もAIエージェント分野で攻勢を強めている。主力のMicrosoft 365にAIエージェント機能を追加し、外部ベンダーのAIエージェントを使う必要性を下げる構えだ。
さらに、Microsoftアプリケーション内のデータを取り込み、他のアプリケーションでも利用できるようにする「Work IQ」も投入した。最近では、AIエージェント環境を統合管理する「Agent 365」も発表している。Agent 365はMicrosoft製に加え、他社製AIエージェントにも対応する。
こうした中、競合各社は、特定ベンダーに依存せずにシマンティックレイヤーを利用できる環境づくりを急いでいる。SnowflakeとSalesforceは、シマンティックレイヤーの業界標準策定に向け、約50社が参加する協力枠組み「Open Semantic Interchange」を主導している。
The Informationによると、Open Semantic InterchangeにはAmazon Web ServicesやOracleも参加しているが、Microsoftは加わっていない。
大手業務アプリケーション企業のSAPも、「Autonomous Enterprise」を掲げてAIエージェント中心の戦略を加速させている。ただ、外部エージェントが同社の中核プラットフォーム上のデータに直接アクセスすることには慎重な姿勢を崩していない。
SAPは、外部AIエージェントが自社プラットフォームに直接接続するのではなく、同社のAIアシスタント「Joule」を経由させる設計を重視している。2026年4月に改定したAPIポリシーの2.2.2項では、AIシステムが独立してAPI呼び出しを予約または実行することを明確に禁止した。外部AIエージェントはSAPのAPIを直接利用できないことを意味する。
年次カンファレンス「Sapphire 2026」の会場で、SAPの最高顧客責任者(CCO)トーマス・ザウアーエシグ氏は、このAPIポリシーについて、マルチテナントプラットフォームに必要なガバナンスだと説明し、正当性を強調した。