ChatGPTをマラソンのコーチ兼栄養士として活用し、9kgの減量と自己ベスト更新につなげた事例が注目を集めている。一方で、食事や運動の入力負担、文脈保持の限界、ハルシネーションによる誤答といった課題も浮かび上がった。
米オンラインメディアGigazineは13日(現地時間)、Bloombergの報道を引用し、デレク・ウォールバンク氏がパリマラソンに向けた準備でChatGPTを数カ月にわたり活用した事例を紹介した。
ウォールバンク氏は2025年4月のパリマラソン出場を決めた後、米カリフォルニア州に移住したことで練習時間が大幅に減り、体重も増えたという。そこで大会まで残り6カ月の時点から、ChatGPTをランニングコーチ兼栄養士として使い始めた。目標は「けがなく完走すること」に置いた。
初期設定には約1時間をかけた。Stravaに蓄積していた走行記録に加え、体重、食習慣、ストレス要因、過去のけが歴などを入力。これを基にChatGPTは、ペース配分の見直しや上半身・体幹の筋力トレーニングの強化、長距離走とけが予防の両立などを提案した。
その後は週間メニューの作成にもChatGPTを使った。月曜と金曜はジム、火曜はインターバル走、水曜は休養、木曜はゴルフなど別の運動、土曜は5km走、日曜は5km超のロング走という構成だ。すべての練習はStravaに記録し、心拍数やペースのデータをあらためてChatGPTへ入力。ランニング、栄養管理、体重管理はチャットを分けて使い分けたという。
結果は一定の成果を示した。ChatGPTの活用後、ウォールバンク氏は9kgの減量に成功し、5kmと10kmで自己ベストを更新した。本人は「ChatGPTのおかげで、以前より長く、速く走れるようになった」と振り返っている。
ただ、AIコーチの弱点も明確だった。最も大きかったのは手入力の負担だ。ウォールバンク氏は1日に何度も食事内容や運動内容を自ら入力する必要があった。サラダの具材や量を細かく記録し、ときには手を添えた写真で大きさの目安まで示したという。入力情報が増えるほど調整の精度は上がったが、その分だけ記録作業も重くなった。
数週間が過ぎると、回答の一貫性にも揺らぎが出始めた。例えば「今週月曜はジムに行く時間がない」と一度伝えた内容が、継続的な前提条件として扱われることがあったという。ウォールバンク氏は、人間のコーチのように過去の入力内容を継続して踏まえてくれると期待していたが、実際には文脈保持に限界があった。
練習開始から約3カ月後には、ハルシネーションの問題も表面化した。ウォールバンク氏は「当初は間違いを修正する程度だったが、次第にいら立ちに変わった」と話している。例えば当日のメニューを尋ねると、予定していた内容ではなくインターバル走を提示したり、目標体重に達していないにもかかわらず目標値を勝手に変更し、「体重管理は順調だ」と評価したりする場面があったという。
レース戦略の作成にもChatGPTを使った。ウォールバンク氏は、最初の給水所まで28分走った後に「4分走って3分歩く」を6回、その後「10分走って2分歩く」を3回繰り返すプランを立てた。この戦略をハーフマラソンで試したものの、途中で標高差183mの急な上りに直面し、計画の修正を迫られた。それでもそのハーフマラソンは3時間未満で完走し、自身2番目の好記録だったとしている。
今回の事例は、生成AIが個別最適化されたトレーニング支援ツールとして一定の有効性を持つ一方、人間のコーチを完全に置き換えるにはなお課題が多いことを示した。減量や記録更新といった成果が出た半面、入力負担や文脈保持の弱さ、ハルシネーションが長期利用時の障壁になった格好だ。