人工知能(AI)が定型業務や反復作業を肩代わりする一方で、使い手の批判的思考や判断力が鈍るのではないかとの懸念が強まっている。Business Insiderは12日(現地時間)、企業幹部や研究者らの見解を基に、思考力を保ちながらAIを活用するための5つの原則をまとめた。
共通する考え方は、AIを「代わりに考える道具」としてではなく、思考を広げ、検証を助けるツールとして使うことにある。ジョンズ・ホプキンス大学のマジド・フォトゥヒ教授は、技術への依存が強まるほど、批判的思考が弱まる可能性があると指摘する。一方で、使い方次第では、より多くの情報を処理・分析する方向に脳を刺激できるとも説明した。
こうした不安は実務の現場にも広がっている。Workdayが昨年2950人を対象に実施した調査では、回答者の約半数が、AIエージェントの利用によって批判的思考が弱まる可能性を懸念していると答えた。Ciscoの上級副社長アヌラグ・ディングラ氏も、「AIに過度に依存しているのではないか。その結果、私たちはより愚かになっているのではないか」という古くからの問いが再び浮上していると語った。
第1の原則は、初稿を自分で書くことだ。PwCでAI導入を担うギタ・ラジャン氏は、数値の検証や非構造データの抽出、自分の考えに対する反論の洗い出しにはAIを使う一方、最初の草案は自ら作成するとした。EYのグローバル最高イノベーション責任者ジョー・ディパ氏も、チームに対し、LLMを使う前に、まずは自分の頭で内容を整理するよう求めているという。その上でCopilotのようなツールで文章を整えれば、問題点を見つけやすくなり、追加で問うべき論点も見えてくるため、生産性向上につながると説明した。
第2は、AIに反論を求めることだ。Possibility Instituteの主任科学者ビビアン・ミン氏は、自分の主張に対して「見落としている点は何か」「どのような反論があり得るか」をAIに尋ねるよう勧める。ミン氏はこれを「生産的な摩擦」と表現した。
デンマークのオーフス大学のジェイコブ・シャーソン氏も、思考プロセスの主導権は人が握るべきだと強調する。同氏は「フレーム―探索―精緻化―コミット(FERC)」の枠組みを示し、まず人間が問題を定義し、次にAIで複数の選択肢を探り、比較・修正を経て、最後の判断は人が下すべきだと説明した。出力を1つ確認しただけで終えるのは、「評価ではなく受け入れにすぎない」とも指摘している。
第3は、あえて負荷のかかる課題に取り組む習慣を持つことだ。カリフォルニア大学のグロリア・マーク教授は、長文を読むことや、継続的な集中を要するオンライン講義の受講のように、深く考える日常的な訓練が必要だと助言する。AIにすべてを任せる「最も簡単な道」に流されず、知的作業を続けて没入状態を維持すべきだという。カーネギーメロン大学のアニケット・キトゥル教授も、考える過程に負荷があるほど得るものは大きく、簡単にこなせる仕事ばかりでは実力を伸ばしにくいと指摘した。
第4は、新しい刺激を取り入れて脳を鍛え続けることだ。脳の可塑性研究の先駆者として知られるマイケル・マーツェニック氏は、「脳が鋭さを保つには運動が必要だ」と話す。人が自力で問題を解くときには、推論し、関連付け、重要な情報を思い出すという過程をたどるが、AIが即座に答えを返すと、こうした働きが抜け落ちやすいという。フォトゥヒ氏は、新しい趣味を始めたり、氏名やカード番号のような情報を暗記したりして、記憶力や注意力を点検する習慣も有効だと述べた。
第5は、AIの出力を自分の言葉で説明し直す工程を設けることだ。IBMやAmazon Web Services(AWS)、Estee Lauderの元幹部であるソル・ラシディ氏は、AIの回答をそのままコピー&ペーストすべきではないと強調する。内容が正確とは限らないためだ。ミン氏は、多くの利用者がAIの生成物をあたかも自分の実力で導いた結論のように受け止めてしまうと指摘する。画面を見ずに、同僚や自分自身、あるいはペットにでも結果の論理を説明してみるよう勧め、「要約するのではなく、人に教えることが重要だ」と語った。説明できないのであれば、それは自分で考えたのではなく、精巧に写しただけに近い可能性があるという。
AIが業務効率を押し上げるのは確かだ。ただ、専門家らは、思考の最終責任まで手放してはならないと口をそろえる。自分で書き、反論を求め、結果を検証する。このプロセスを保つ限り、AIは能力を奪う道具ではなく、判断力を補強する道具として機能するというのが、今回示された助言の結論だ。