Amazon、Alphabet、Meta、Microsoftが2026年にAIインフラへ投じる資金は計7000億ドルに達する見通しだ。これに対し、Appleの投資額は140億ドルにとどまる。ただ、Xerion Investmentsの創業者兼CEO、ダニエル・J・アーベス氏は、AppleがAIで出遅れているとはみていない。むしろ、M5チップと膨大な端末基盤を背景に、消費者向けAIでは独自の優位性を築けると主張する。
アーベス氏は米Wall Street Journalへの寄稿で、Appleが支出を抑えているのは「無知だからではなく、確信があるからだ」と論じた。その根拠として挙げたのがM5チップだ。
Appleは2025年10月、全GPUコアにニューラルネットワークアクセラレーターを内蔵したM5チップを発表した。Appleの性能測定によると、M5は300億パラメータ規模のモデルを3秒以内に実行できるという。
アーベス氏は、MacBook Pro 1台で、インターネット接続やサブスクリプション料金、APIキーなしでも、法務文書のドラフト作成やコードのデバッグ、資料の要約までこなせる水準に近づいているとみる。
Appleの稼働端末は現在25億台に上る。世界のインターネット利用者の4人に1人が、手元やデスク上にApple製デバイスを持っている計算になる。アーベス氏によると、GoogleはAppleから年10億ドル程度を受け取り、端末内で処理しきれない領域をGeminiで補完しているという。
同氏はこの構図について、「競合が建物全体を担保に取られるのに対し、Appleは最上階だけを借りるような戦略だ」と表現した。そのうえで、「来年、AnthropicやDeepSeekがより優れたモデルを出せば、入れ替えればいい」と述べた。
アーベス氏は、Appleが消費者向けデバイス市場で築いてきた基盤が、今後のAI、少なくとも個人向けAIの領域で、クラウド中心のAI企業に対する優位性の土台になるとみている。
同氏は「2032年までに、事実上すべての製品にApple Intelligenceが搭載される見通しだ」と指摘する。メール要約、文章作成支援、写真編集、翻訳、検索といった機能が端末内で完結すれば、サーバーに送られるリクエスト自体が減る可能性があるという。「ChatGPTやCopilotに月20ドル(約3000円)を支払ってきた数億人のユーザーが、すでに手元にある端末で同等の機能を使えるようになる」と説明した。
一方で、企業向けAI市場は事情が異なるとも分析する。「数百万件の文書を処理するマルチエージェントシステムには、データセンター級のハードウェアが必要だ。NVIDIAのVera Rubinプラットフォームのメモリ帯域幅は、Appleの最上位チップの36倍に達する。Microsoft、Amazon、Googleは企業向けAIで投資回収を期待できる。ただし、その進展は現在の支出規模が示すほど速くはない可能性が高い」と述べた。
さらに同氏は、Appleの動きによって最も脆弱な立場に置かれかねない企業としてMetaを挙げた。「MetaにはプラットフォームもOSもクラウドもデバイスもない。今年、最大1350億ドルをAIに投じるとしても、AppleはOSレベルで同様の機能を無償で提供できる。Siriが端末内で問い合わせを処理できれば、Instagramアプリを開く理由は薄れる。AIが20分分のスクロール内容を30秒で要約すれば、Metaが販売する広告枠もその分減る」との見方を示した。
そのうえで、「Metaのターゲティング技術は依然として世界最高水準だが、その技術が収益化してきた『関心』そのものをAppleが侵食しつつある」と指摘した。
アーベス氏は最後に、「個人向けAIへの移行に、5000億ドル(約75兆円)の集中型インフラが本当に必要なのか。それとも、すでに生産・販売された25億台の端末で十分なのか。Appleは端末に賭けた」と総括した。