Netflixは21日、ソウル・光化門で開催されるBTS公演を世界同時生中継する。3億人超の会員を抱える同社にとって、今回の配信は規模の面でも技術面でも大きな注目を集めそうだ。
ライブ配信は、ビデオ・オン・デマンド(VOD)とは技術要件が大きく異なる。VODはコンテンツをあらかじめ世界各地のサーバに配置できるが、ライブ配信では公演の進行と同時に映像信号を取り込み、エンコードし、膨大な数の端末へ一斉に届けなければならない。
特に配信開始時はアクセスが集中しやすく、障害が起きれば視聴体験に直結する。このためNetflixは、AWS上に独自のライブ配信基盤を構築し、継続的に強化してきた。2023年のライブコメディ特番以降、NFLやWWE、ボクシングを含む数百件のライブイベントを運用してきたといい、今回のBTSソウル・光化門公演は過去最大級の案件の一つになるとしている。
配信ではまず、会場からの映像信号を放送運用センター経由でAWSクラウドに取り込む。中核となるのは冗長化設計だ。地理的に分離した2つのAWSリージョンを使い、それぞれに独立した2本のネットワーク経路を確保することで、計4系統の伝送経路を常時稼働させる構成を採る。
放送業界標準のSMPTE 2022-7を用い、いずれかの経路に障害が発生しても、視聴者に影響が及ぶ前に別経路へ切り替える。クラウドに到達した映像はそのままリアルタイムでエンコードされ、端末性能や通信環境に応じた形式へ変換される。
変換処理にはAWS Elemental MediaLiveを利用する。SDからUHDまで複数の画質を用意し、AVCとHEVCの2方式で配信する。視聴側では回線速度や端末の性能に応じて最適な画質が自動で選択されるほか、多言語音声や字幕の処理も並行して行う。
配信網にはNetflixの自社CDN「Open Connect」を用いる。世界6,000カ所超に配置した1万8,000台超のサーバから利用者に近い地点で配信し、遅延を抑える仕組みだ。
今回のBTSライブでは、最大で毎秒3,800万件のシステムイベントをリアルタイムで処理する想定という。配信開始時の急激なアクセス増に備え、事前のキャパシティ確保とオートスケールを組み合わせて対応する。
AWSとNetflixは、リアルタイムの視聴需要予測に基づき、影響が広がる前に先回りして対処する運用体制も整えた。視聴体験の面では、ライブ配信を「いつでも見られるコンテンツ」から「世界中のファンが同時に参加する体験」へと広げる取り組みと位置付けている。
会場規模に左右されることなく、3億人超のNetflix会員が地域や時間帯を超えて同じ公演につながることができる。AWSは、こうしたクラウド基盤がグローバル同時配信のハードルを下げ、K-POPを含む韓国コンテンツの制作者が世界の視聴者とリアルタイムで接点を持つ道を広げると説明した。
AWSは今回の配信を支える主要技術として、AWS Elemental MediaConnect、AWS Elemental MediaLive、Amazon S3、AWSのクラウド基盤を挙げた。
AWS Elemental MediaConnectはライブ映像向けの伝送サービスで、放送現場からクラウドまで映像信号を高品質で届ける。Netflixは同サービスを通じて放送設備からライブフィードを取り込み、多重冗長化とフェイルオーバーを管理している。
AWS Elemental MediaLiveは、放送品質のライブ映像をクラウド上でエンコードするサービスだ。複数の解像度やビットレートにリアルタイム変換し、テレビやスマートフォン、タブレットなど幅広い端末で再生できるようにする。
Amazon S3は、大容量メディアを安定的に保存・配信できるオブジェクトストレージ。Netflixはライブ配信の初期段階でS3バケットを「ライブオリジン」として利用していたが、2秒刻みのセグメントをリアルタイムで読み書きする際に必要となる遅延特性や性能SLAが十分ではなかったため、自社開発のメディア認識型ライブオリジンサービスへ移行したという。
AWSのクラウド基盤では、複数リージョンにまたがってライブサービスを展開する。地理的に分離した2リージョンで同一パイプラインを並列運用する二重リージョン構成により、単一障害点を排除しつつ、イベント開始時の急増トラフィックに応じて計算資源を動的に拡張できる点をAWSは強調している。