金融監督院は、証券会社が株式の売買額や売買回数に応じて現金や商品券を付与する販促策を原則禁止する。海外株やレバレッジ商品など高リスク商品を対象にした金銭特典付きのキャンペーンも制限する。新規顧客の獲得や売買の拡大を狙って広がっていた証券各社の現金特典競争は、見直しを迫られることになりそうだ。
金融監督院と金融投資協会は10月28日、健全な競争秩序の確立と投資家被害の防止に向け、証券業界における「財産上の利益」の提供基準を強化すると発表した。
今回の見直しの柱は、売買回数や売買代金に比例して現金や商品券などを提供するキャンペーンを原則として禁じる点にある。これまで証券会社は、一定額以上の取引で現金を還元したり、売買実績に応じて景品を積み増したりする手法で顧客を獲得してきた。
金融監督院は、こうした営業手法が投資家に不要な反復売買を促し、取引コストや損失リスクを高めるおそれがあると判断した。顧客の売買が増えるほど、証券会社が受け取る委託売買手数料も増えるため、利益相反の可能性もあると説明している。
公表した事例では、ある証券会社が国内ETFとETNを対象に、1日当たりの売買代金が500億ウォンを超えた場合、最大500万ウォンを支給するキャンペーンを実施していた。
この期間中、個人投資家2人がそれぞれ3兆4000億ウォン、1兆7000億ウォン相当のETFを売買し、キャンペーンの賞金として3億4000万ウォン、1億7000万ウォンを受け取ったという。
当該ETFのキャンペーン期間中の売買代金は計97兆5000億ウォンで、このうち当該証券会社経由は42兆8000億ウォンと43.9%を占めた。金融監督院は、同社がこのETF取引で約514億ウォンの委託売買手数料を得たと推定している。
高リスクの金融投資商品に対する規制も強化する。対象は、レバレッジ型・インバース型のETP、取引所取引・店頭デリバティブ、信用取引など投資家向けの信用供与、海外投資商品だ。
今後は、これらの商品について、売買実績の有無にかかわらず、現金や商品券などの特典を付けるキャンペーン自体を禁止する。海外株の初回取引顧客への現金付与や、信用取引の新規顧客への現金提供も規制対象に含まれる。
一方で、すべての顧客特典がなくなるわけではない。証券会社が独自に設定する売買手数料や金利の割引・免除は、従来通り認める。
国内株など一般的な商品については、売買回数や売買代金と連動しないキャンペーンであれば実施可能とする。売買実績ではなく、投資残高を基準に特典を付与する方式も認める。
このため、国内株の新規顧客や他社から資産を移管する顧客に対し、売買実績と無関係に特典を付ける手法は維持できる。一方、海外投資商品に金銭的な特典を付けるキャンペーンは制限される。
今回の措置により、証券会社の顧客獲得戦略の見直しは避けられない見通しだ。とりわけ海外株市場では、売買代金の拡大や新規顧客の流入を狙って現金特典を活用してきたため、販促手段は大きく狭まる。
海外株取引のシェア拡大を目的に、新規顧客や休眠顧客への現金付与、他社保有株の移管に対する現金提供などを競う動きが続いてきたためだ。
金融監督院は、海外株営業を巡る問題点もこれまで繰り返し指摘してきた。
8月31日にはShinhan Investment Corp.に対し、経営上の留意事項などを通知し、海外株の売買額に比例して現金を付与するキャンペーンについて、投資家保護の手続きが不十分だと指摘した。
Shinhan Investment Corp.が2023年9月から2025年12月まで当該キャンペーンを運営する過程で、同一人物に対する補償上限や利益相反の可能性を十分に検討していなかったとしている。
特に、キャンペーン期間中に米国短期債ETFの売買額と顧客の売買回転率が急増した点を問題視した。海外株取引キャンペーンを実施する際には、関連規定の順守状況を事前に点検し、異常取引のモニタリングを強化するよう求めた。
海外投資関連の広告や顧客向け案内に対する監督も続いている。金融監督院は証券会社に対し、海外投資で生じ得る為替変動や税制の違いなどのリスクを十分に説明するとともに、キャンペーンや投資広告に関する内部統制を強化するよう求めてきた。
今回の改善案は、こうした従来の監督方針をさらに進め、現金性特典の付与そのものに明確な制限基準を設けるものといえる。
金融監督院と金融投資協会は、11月に金融投資協会規定の改正案を事前公表し、意見募集を経て12月までに改正を終える計画だ。証券会社の内部規定の整備や業務プロセスの変更を踏まえ、施行日は2027年1月1日とした。
ただし、規定施行前であっても、すでに告知済みのキャンペーンを除き、改善案に反する新規キャンペーンは業界の自主判断で実施しない方針だという。
証券業界関係者は「今後は現金や景品を配る方式よりも、売買手数料の引き下げや投資情報の提供、取引利便性の改善など、サービスそのもので競う重要性が高まる」と話した。その上で「海外株分野では現金特典付きキャンペーンが制限されるため、証券会社間の顧客獲得競争にも影響が及ぶ」と述べた。