T-Mobileは10月27日(現地時間)、Nokia、NVIDIAと共同で、商用5G基地局を用いた世界初のAI-RAN通話に成功したと発表した。商用ネットワーク上でNokiaの無線ソフトをNVIDIAのGPU基盤で動作させた点が特徴で、周波数効率の向上につなげる狙いがある。
海外メディアのTechRadarなどによると、実証は米ワシントン州ベルビューにある商用基地局で実施した。T-Mobileが運用する5Gスタンドアロン(SA)コアと市販のスマートフォンを接続し、実際に通話を成立させた。
構成には、NokiaのMassive MIMO無線装置と5G anyRANソフトウェア、NVIDIAのAerial RAN Computer(ARC)プラットフォームをベースとするサーバを採用した。専用チップ中心だったRAN処理をGPUベースへ移した点が今回の柱となる。
NokiaのCUDAベースの無線ソフトウェアをNVIDIAのGPU上で動作させ、無線接続を最適化する。空いた演算資源は、別のAI処理に振り向ける想定だ。
AI-RANの狙いは、同じ周波数帯でより多くのデータを送れるようにし、周波数効率を高めることにある。NokiaはAI-RANによって周波数効率を2倍に引き上げる目標を掲げている。
Nokiaは2026年7月に公開したプラットフォームについて、足元で20%超の効率改善を達成したと説明した。2027年に50%、2028年に100%超の改善を目指すとしているが、具体的な測定条件は明らかにしていない。
もっとも、今回の通話実証について3社は、データスループットや遅延、周波数効率がどの程度改善したのかを公表していない。このため、商用網でNokiaの無線ソフトがNVIDIAのハードウェア上で動作することは示した一方、AIが通話品質や通信性能をどこまで引き上げたかは判断できない。
関連分野では、性能改善を示す事例も出始めている。Deutsche Telekomは、ボンとオウルで実施した初期試験で、AIベースのチャネル推定により上りリンクのスループットが通常より10〜15%向上したと明らかにした。
ただ、これは実験室での試験結果で、実地での検証はなお継続中としている。
T-Mobileは、NVIDIAのGPUを使わないAI-RAN技術の検証も進めている。今回の発表前日には、Ericssonの自社半導体を活用したAIビームフォーミング技術をニューヨークで試験し、混雑時間帯に下りのユーザー処理量が16%、周波数効率が12%改善したと公表した。
5月には、GPUを用いない別のAIスケジューラでも、周波数効率が約10%改善したとしている。もっとも、これらはいずれも各社が示した試験結果で、T-Mobileは実証に参加した基地局数を開示していない。
Omdiaのシニアアナリスト、ガブリエル・ブラウン氏は、今回の成果を「驚くべき瞬間」と評価した。既存設備にソフトウェア更新を適用する形で性能を高められる可能性に注目した。
T-Mobileは2024年、NVIDIA、Ericsson、NokiaとAI-RANイノベーションセンターを設立し、各社技術の検証を進めてきた。T-Mobileの最高ネットワーク責任者(CNO)、アンクル・カプール氏は、AI-RANについて「単一の製品ではなく、連続的に進化する領域だ」と述べ、NVIDIAと関連ソフトウェアの開発を進めていると説明した。
今後の課題は商用化とコストの見極めだ。NokiaのAI-RAN製品は2026年末ごろに試験導入を始め、2027年の商用供給を目指す。
T-Mobileの最高技術責任者(CTO)、ジョン・ソー氏は、現場試験を通じて総所有コスト(TCO)を把握していく考えを示した。Nokiaが掲げる周波数効率改善の目標についても、実際の運用成果で示す必要があるとの認識を示している。
仮に商用化が進んでも、利用者がすぐに通話音質の違いを体感できるとは限らない。当面の焦点は、混雑エリアで通信容量をどこまで拡大できるかにある。
NVIDIAにとっても、今回の実証の意味は大きい。基地局へのGPU搭載が広がれば、新たな売上機会の創出につながるためだ。
NVIDIAの最高経営責任者(CEO)、ジェンスン・フアン氏は、通信網はこれまで人の会話を運ぶために構築されてきたが、今後は「世界の知能も一緒に運ぶようになる」と語った。