産業自動化大手が、AIとデータセンター需要の拡大で得た潤沢な資金を、事業拡大に振り向けている。Schneider ElectricやSiemensがソフトウェア企業の買収を積極化する一方、ABBは電化・自動化に必要な実設備への投資を優先しており、各社の戦略の違いが鮮明になってきた。
Schneider Electric、Siemens、ABBはいずれも足元で業績見通しを引き上げた。株価上昇と強固な財務基盤を背景に、大型M&Aを進める余力が高まっている。
英Financial Times(FT)は、Schneider ElectricとSiemensがソフトウェア企業の買収に積極的だと報じた。
Schneider Electricはこのほど、米エンジニアリングソフト企業PTCを240億ドル(約3兆6000億円)で買収すると発表した。FTは、調査会社Dealroomのデータを基に、2021年以降の欧米企業間取引として最大級だと伝えている。
この買収により、Schneider Electricの電力計測機器や冷却システム、制御機器に、PTCの製品設計、製造、保守管理向けソフトウェアを組み合わせる。オリビエ・ブリュム最高経営責任者(CEO)は今回の取引について、「ソフトウェアとAIを兼ね備えた強力な企業が誕生した」と強調した。
Schneider Electricは7月、産業用AI企業Cogniteを31億ドル(約4650億円)で買収すると公表している。
同社のデータセンター関連売上高は約100億ユーロで、全体の約4分の1を占める。業績見通しを再び上方修正した背景には、テック企業によるデータセンター向けソリューション需要の急増があるという。
一方、欧州最大のエンジニアリング企業Siemensは、約20年前にUGSを35億ドル(約5250億円)で買収し、製造ソフトウェア事業を本格化した。昨年には、自動車、航空宇宙、エネルギー向けソフトウェアを手がけるAltair Engineeringを100億ドル(約1兆5000億円)で買収した。
FTによると、SiemensとSchneider Electricは、次世代の産業生産ラインの運用に必要な設備とデータを組み合わせることで、大きな相乗効果が見込めると判断している。
こうした動きは、立ち上がりつつある産業用AI市場で主導権を握るための布石との見方もある。産業用AIは、工場や生産ラインで生まれる膨大なデータを活用し、運用効率の向上につなげることを主眼とする。
これに対し、スイスのABBは、ソフトウェアよりも実設備を重視する姿勢を示している。ABBは7月、英産業用部品メーカーRotorkを55億ドル(約8250億円)で買収した。ソフトウェア領域の拡大を進めるSchneider Electricとは対照的な動きだ。
ABBは社内に約2000人のソフトウェアエンジニアを抱えるが、今回の買収は、電化と自動化に必要な設備に集中する戦略を示すものだとFTは報じた。
ABBのピーター・ヴォーザー取締役会議長は、M&A戦略におけるSiemensやSchneider Electricとの違いは大きいとした上で、ABBは別の道を歩んでいると強調した。「当社はソフトウェアやAI企業を買収する会社ではない。自社開発で対応する」と述べた。
AlphaValueのアナリスト、ラズパル氏は「ABBは、電力や水道などの公益事業会社、産業企業、輸送企業、データセンター向けに必要な設備へより注力している」と指摘。その上で、「市場支配的な地位を確立していれば、収益性の向上に高額なソフトウェアが必須ではないことを示している」と話した。
ABBによると、同社の技術はデータセンターの4カ所に1カ所で採用されている。データセンター関連売上高は約30億ドル(約4500億円)で、全体の約10%を占めるという。