イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相が、国際的な金融制裁への対応策としてブロックチェーンや暗号資産の活用に言及し、波紋を広げている。総選挙を前に野党が強く反発したほか、イスラエル銀行や業界関係者も、制裁回避の手段としては現実性に乏しいとの見方を示した。
ブロックチェーンメディアのCointelegraphによると、ネタニヤフ氏は総選挙を控え、潜在的な制裁がイスラエル経済に与える打撃を和らげる手段として、関連技術を検討していると述べた。
ネタニヤフ氏は24日、イスラエルのChannel 10経済ネットワークのインタビューで、「ブロックチェーン」を将来的な銀行制裁を回避する手段の一つとして挙げた。「ブロックチェーンは制裁への代替策だ」と述べ、「国家戦略のツール」と位置付けた。選挙戦のさなかに出た発言だけに、ブロックチェーンや暗号資産が政治争点に浮上した形だ。
背景には、欧米側の制裁圧力がある。Cointelegraphによれば、ヨルダン川西岸のイスラエル入植地で生産された製品を対象とする制裁は、すでに一部の国で発表されている。先月には、こうした措置がイスラエル本土に広がる可能性への懸念も示されたという。ネタニヤフ氏の発言は、金融制裁リスクを経済安全保障上の課題として位置付けるメッセージとも受け止められている。
これに対し、政界と通貨当局はすぐに反応した。27日の総選挙でネタニヤフ氏の対抗馬となる候補らは、この構想を厳しく批判した。ヤシャル党代表のガディ・アイゼンコット氏はX(旧Twitter)への投稿で、「ビビコイン(BibiCoin)のビジョンは国家安全保障への脅威だ」と主張した。
ビビコインは実在する暗号資産ではなく、野党がネタニヤフ首相の金融政策を皮肉って使った呼称だ。暗号資産を制裁回避の手段とみなす発想そのものが危うい、との批判を込めたものとみられる。
イスラエル銀行も公式見解を示し、首相発言と距離を置いた。同行は「暗号資産を制裁回避の経路として利用することはできない」と表明した。暗号資産では既存の銀行ネットワークや資本市場、対外決済の仕組みを代替できないとの認識を明確にした。
業界内でも同様の見方が出ている。イスラエルの暗号資産メディア「CryptoJungle」創業者のベン・サモカ氏は、暗号資産やブロックチェーンを使った解決策は制裁回避の道具ではないと指摘した。米財務省の対イラン制裁を例に挙げ、ブロックチェーン分析によって違法資金の流れは追跡可能であり、法定通貨への出入り口を遮断し、資産凍結にまで至る可能性があると説明した。
そのうえで、イスラエル経済は暗号資産を使って制裁を回避するような構造にはなっていないと述べた。
現地メディアや市民社会の反応も否定的だ。テルアビブの反政府集会の参加者は、暗号資産を基盤とする経済構想に懸念を示した。コラムでも、デジタル資産は一部の伝統的な金融チャネルの外に価値を移すことはできても、国家の金融システムを代替することはできないとの批判が出ている。
また、海外企業に対して対イスラエル制裁違反の履行を強制することもできず、銀行の信用供与や国際資本市場の機能も置き換えられないとの指摘がある。
今回の発言は、単なる技術活用論にとどまらず、ブロックチェーンや暗号資産を国家経済の防衛手段とみなせるかどうかという議論に発展している。ネタニヤフ氏が総選挙を前にデジタル資産を経済安全保障の論点として持ち出したのに対し、イスラエル銀行や業界は、追跡可能性の高さと制度金融の制約を理由に実効性へ疑問を投げかけている。選挙後に政府が実際に政策転換へ動くのか、それとも政治的発言にとどまるのかが焦点となる。