スティーブ・ジョブズの死去から15年がたった今も、テクノロジー業界では「次のジョブズ」を求める声が絶えない。ただ、米ITメディアの9to5Macは5日(現地時間)、そうした見方はジョブズが残した遺産を過度に単純化していると報じた。
9to5Macは、ジョブズの遺産は単なる革新者やカリスマ経営者というイメージにとどまらないと指摘する。本質は、人の役に立つ優れた道具をつくろうとした姿勢にあるという。ジョブズはものづくりを人類への恩返しと捉えており、たびたび語られる「宇宙に足跡を残す」という哲学も、単に大きな成功を収めることだけを意味していたわけではないとした。
こうした考え方は、元Appleのリテール部門責任者ロン・ジョンソン氏の新刊「Shop Different」でも触れられている。ジョンソン氏は2000年、Apple Store事業の立ち上げ準備を進めるなかで、顧客サービスの哲学として「顧客を愛せ」と提案した。これに対しジョブズは、ビジネスの現場で「愛」という言葉を使うことには慎重だったため、最終的には「暮らしを豊かにする」という表現に落ち着いたという。
とはいえ、ジョブズの関心がユーザーから離れていたわけではない。2010年、iPhone 4のアンテナ問題を巡る記者会見では、「私たちはユーザーを愛している」というメッセージを繰り返し、製品に問題が起きた際には利用者を満足させることが重要だと強調した。
9to5Macは、こうした姿勢こそがジョブズを単なる「製品の天才」と区別する要素だとみている。細部への執着や高い基準だけでなく、他者から学ぶ姿勢、失敗に責任を負う態度、そしてユーザーの創造性を引き出す道具づくりに集中した点が核心だとしている。
そのうえで同メディアは、業界が向き合うべきなのは「次のジョブズ」を探すことではなく、ジョブズが示した技術哲学を改めて見直すことだと結論付けた。事業の成功やイノベーションを追求しながらも、製品を使う人を中心に据える姿勢こそが重要であり、優れた技術は性能や売上だけでなく、ユーザーの生活をどう変えるかまで含めて問われるべきだとしている。