【マウイ(米国)=ソク・デゴン】Qualcommが、AIグラスの産業分野と医療分野への展開を加速している。作業の性質上、手を塞げず画面操作もしにくい現場に向け、ハンズフリーで情報にアクセスできるウェアラブルとして活用を広げる構えだ。
Qualcommは9月23日(現地時間)、Snapdragon Summitで、INSPECSと共同開発したカメラ搭載の工業用保護メガネ型AIグラスを公開した。あわせて、医療分野ではウェアラブル活用を見据えた「Personal AI Health Alliance」の発足も明らかにした。
産業現場では、カメラはすでに作業支援ツールとして使われている。INSPECS創業者兼取締役会議長のロビン・トッターマン氏は基調講演で、「工場や石油掘削施設、実験室でカメラは新しい機器ではない。すでに信頼され、働き方の一部になっている」と述べた。
INSPECSは、自社で眼鏡の設計から量産まで手がけるメーカーだ。トッターマン氏は「勤務開始前に規定に従って保護メガネを着用する人は数億人規模に上る」と説明し、工業用保護メガネは着用が義務付けられたアイウェア市場として極めて大きいと強調した。
そのうえで、利用者に新たな装着習慣を求めるのではなく、すでに日常的に着用されている保護メガネにAI機能を組み込める点を訴求した。
INSPECSの新製品は、こうした既存の装着基盤にカメラとAIを組み合わせたものだ。作業者は工具を手放さずに点検用の写真を撮影できるほか、離れた場所にいる専門家が同じ映像を見ながらリアルタイムで修理手順を案内できる。現場にいない管理者も、装着者の視点映像をそのまま共有できるという。
作業中に生じた疑問は音声でAIに問い合わせられ、複雑な作業ではステップごとのガイダンスを受けながら進められる。Qualcomm上級副社長でXR・ウェアラブル・パーソナルAI部門を統括するジアド・アスガル氏は、「AIメガネやAIピンのようなウェアラブルは、オフィス、産業、教育、医療の現場で、情報へのアクセスや文脈の記録を支援できる」と語った。
INSPECSは第1弾製品「Enterprise Frame」も披露した。耐衝撃フレームにカメラ、複数のマイク、スピーカー、音声操作とタッチ操作、大容量バッテリーを搭載し、一般的な保護メガネと同等の安全基準を満たすとしている。カメラ非搭載モデルも同時に公開した。
Qualcommは6月にINSPECSへ出資し、「Snapdragon AR1+(第1世代)」プラットフォームのほか、AIソフトウェアやリファレンスデザインを提供した。トッターマン氏は「2時間で痛くなる眼鏡は誰もかけない」と述べ、装着性の確保に加え、危険環境に対応する安全試験が大きな課題だったと振り返った。そのうえで、「眼鏡メーカーだけでも、チップメーカーだけでも実現できなかった」と話した。
度付きレンズに聴覚補助機能を組み合わせたAIグラスは、医療分野への応用とも親和性が高い。トッターマン氏は「眼鏡はすでに医療機器というイメージを脱しているが、補聴器はそうではない」と述べ、眼鏡に聴覚補助機能を組み込んだ狙いを説明した。
Qualcommは、こうしたハンズフリーのアプローチを医療現場にも広げる考えだ。Snapdragon Summitでは、医療従事者が患者から視線を外さず、患者の同意を得たうえでリアルタイムの案内を受ける活用法や、高齢者ケアの現場で状態変化をより早く検知する用途を示した。
これに向けて同社は、医療・技術関連企業が参加する「Personal AI Health Alliance」を発足した。目標は、医療現場にある喫緊の未充足ニーズに対し、オンデバイスのパーソナルAIで対応することだという。
Qualcommが公開した紹介映像では、転倒リスクを事前に予測するウェアラブルや、診療内容を自動記録するアンビエントAIが活用例として示された。映像に登場した医療関係者は、医師が電子カルテ入力のため患者に背を向け、退勤後まで記録業務に追われている実態を指摘した。いずれもデータは端末内で処理し、個人情報を保護する設計としている。
Qualcommは、アライアンスの次の段階として、臨床試験やソリューション、実運用事例を近く公表する計画だ。一方、産業分野では、Qualcommのウェアラブル支援プログラムから生まれた初の機器として、INSPECSの保護メガネが先行して導入される見通しだ。
アスガル氏は「これはまだ始まりにすぎない。近く臨床試験と実際の活用事例を共有する」と述べ、「この分野には大きな可能性がある」と語った。