企業のソフトウェア予算で、OpenAIやAnthropicなどAI専業企業に振り向けられる比率が高まっている。これを受け、既存の企業向けソフト各社やクラウド大手では、AI製品の値下げや無料提供を打ち出す動きが広がっている。
The Informationによると、WorkdayやHubSpotなどのエンタープライズソフト企業に加え、MicrosoftやAmazonも、顧客維持を狙ってAI製品の無料トライアルや割引の提供を進めている。
Workdayは今夏、主要顧客約20社を対象に、自社AIプラットフォーム「Sana Enterprise」を1年間、利用制限なしで無償提供するプログラムを始めた。参加企業は、新入社員の採用・登録などの人事業務や財務業務を自動化するAIエージェントを利用できる。
こうした施策は、AI普及が進んだ現在も、既存ソフト企業がAnthropicやOpenAIといった新興勢にどう対抗するか、なお差別化の道筋を定め切れていない実情を映しているとの見方もある。
調達ソフト企業Zipによると、昨年9月から今年8月までの1年間で、OpenAI、Anthropic、SierraなどのAI企業が企業のソフトウェア予算に占める割合は8%に達した。前年同期の1.4%から大きく上昇している。同期間のソフトウェア予算全体の伸び率は13%だった。
既存のソフト企業にとっては見過ごせない変化だ。
AnthropicとOpenAIは、金融やデザインなど幅広い分野で業務自動化を可能にする技術を磨きつつ、モデル価格も引き下げている。既存ベンダーへの圧力は一段と強まっている。The Informationは、企業顧客がAnthropicのClaude CodeやOpenAIのCodexへの予算拡大を正当化するため、ほかの支出を削減していると報じた。
一方、企業向けソフト各社が導入してきたAIの料金体系そのものが、利用拡大の妨げになりかねないとの指摘もある。
既存ソフト各社は、AIの利用量やAIが処理した作業件数に応じて課金する仕組みを相次いで導入してきた。各社はAIに適した制度と説明するが、顧客の間ではコスト増につながるとの警戒感も出ている。
その懸念は一部で現実のものとなっている。ソフト企業Pegasystemsでは、MicrosoftのAIコーディングツール「GitHub Copilot」への支出が、月2万ドル(約300万円)から26万ドル(約3900万円)へ急増した。Microsoftが従量課金へ切り替えた後に起きたという。
企業向けソフト各社がAI製品の値下げや無料特典を拡大しているのは、こうした不安を踏まえた対応とみられる。
Microsoftは、GitHub Copilotの従量課金を開始した後も、一部企業に1カ月の猶予期間を設けているとされる。あるメーカーには、この猶予期間に加え、従量課金開始後の3カ月間、毎月数万ドル相当の無料クレジットも提供したという。ただ、料金体系の変更を受け、このメーカーはコーディング業務をAnthropicのClaude CodeやSpaceXのCursorへ切り替える案も検討していると、The Informationは伝えた。
デザインソフト企業Figmaも、利用拡大に向けてAIの価格を引き下げた。ディラン・フィールドCEOは、サンフランシスコで開かれたGoldman Sachsのテックカンファレンスで、AI製品の利用コストを最大で半分に引き下げたと明らかにした。Figmaは3月に従量課金へ移行し、8月末には既存サブスクリプションで同じ料金のまま、より多くのクレジットを利用できるようにする方針も示した。
テックコンサルティング企業Thoughtworksの最高データ・AI責任者、シャヤン・モハンティ氏は「従量課金型の高価なAIの導入で負担が増した顧客をつなぎ留めるため、ソフトウェア企業はこの6カ月、価格設定をより柔軟にしている」と指摘した。そのうえで「現在、ソフトウェア企業はソフトウェア製品やAI製品で通常30〜35%の割引を提示し、新製品の無料体験期間も延長している」と述べた。