ステーブルコインで給与を受け取る仕組みが広がりつつある。ただ、国際送金コストの削減や着金の速さといった利点がある一方、生活費として使える形に換えるまでの換金・出金コストが労働者側の負担となれば、実質的な受取額は目減りしかねない。
CryptoSlateが9月20日付で報じたところによると、ステーブルコイン給与は国際送金の効率化に寄与する半面、実際に利用可能な資金に換える過程で発生する手数料が労働者に転嫁されると、受取額の実質価値が下がるおそれがある。
企業側の導入は進んでいる。Galaxy Payroll Groupは9月2日、新サービスを発表し、9月中の段階導入を予定していると明らかにした。Deelはすでにステーブルコインによる支払いサービスを提供しており、9月17日には雇用主向け案内を更新した。Deelは、ステーブルコインで支払う場合でも、従来の賃金支払い、納税、源泉徴収、報告義務がなくなるわけではないと強調している。
論点は送金スピードそのものではない。労働者が受け取った給与を、いつ、いくら使えるのかにある。企業が社内でステーブルコインを活用しつつ、労働者には法定通貨で支払う形もあり得るが、労働者がステーブルコインを直接受け取る場合は、現地通貨への換金時に手数料や一部の責任を負う可能性がある。
賃金支払いの条件も事前に明確にしておく必要がある。企業が手取り2000ドルを約束し、2000ドル相当のステーブルコインを支払ったとしても、現金化に伴う手数料を労働者が負担すれば、実際に使える金額は減る。例えば換金と出金に1%の費用がかかれば、2000ドルは1980ドルになる。1%はあくまで試算上の例だ。
問題はブロックチェーン上の送金手数料だけではない。給与を生活資金として使える形に変えるまでの総コストが問われる。換金・出金手数料に加え、現地通貨へ両替する際の為替レートに実質的なコストが織り込まれる場合もある。
雇用主の法的義務も変わらない。ステーブルコインで給与を支払っても、既存の賃金規制が自動的に見直されるわけではない。米国の連邦規定では、公正労働基準法に基づく最低賃金や時間外手当の支払いについて、現金または額面どおりに換金可能な手段が前提とされている。ただし、暗号資産による報酬が全面的に禁じられているわけではなく、追加報酬、独立契約者、海外の労働者では適用ルールが異なる可能性がある。
為替変動も無視できない。USDCのようなドル連動型ステーブルコインが1ドル前後の価値を維持していても、家賃や食費が現地通貨建てであれば、為替の動きによって給与の実質価値は変わり得る。数秒で受け取れても、すぐに使う、あるいは換金できなければ、迅速決済の利点は限定的だ。
USDCを直接ドルに償還する過程にも制約が生じる可能性がある。CircleのUSDC利用規約では、直接償還できる適格顧客と、それ以外の保有者を区別している。特定アドレスの遮断や、法的措置に伴うUSDC凍結の可能性も明記されている。このため、労働者が取引所や別のサービスを通じて換金せざるを得ない場合があり、アカウント制限や出金遅延が起きれば、ウォレットにステーブルコインがあっても直ちに利用できないことがある。
税務と記録管理の負担も残る。米国内国歳入庁(IRS)は、雇用主が賃金として支払った仮想通貨について、受領時点の公正市場価値をドルで算定し、所得税の源泉徴収や雇用関連税の対象に含めるよう求めている。その後に資産を売却・処分する場合には、受領時点と処分時点を確認できる記録が必要になる可能性がある。英国でも、雇用を通じて受け取った暗号資産に所得税と国民保険料が適用され得るほか、その後の処分時にキャピタルゲイン課税が問題となる場合がある。
結局のところ、ステーブルコイン給与の本質は、どれだけ速くウォレットに届くかではない。国際決済コストを抑え、資金を迅速に届けられる利点はあるものの、労働者にとってより重要なのは、家賃や生活費の支払いに回せる実額がいくらになるのかという点だ。