リナ・カン前米連邦取引委員会(FTC)委員長は、人工知能(AI)企業への規制について、新たな法制度の整備を待つ必要はなく、既存の消費者保護法や競争法の執行で対応できるとの考えを示した。
GIGAZINEが16日(現地時間)に報じたところによると、カン氏は、十分に検証されていないAIモデルやAIエージェントを市場に投入する行為は、現行法の下でも制裁の対象になり得ると述べた。
また、欠陥のあるAIエージェントを検知・遮断するための適切な対策を講じないままサービスを提供した場合、FTC法や各州の類似法が禁じる「不公正または欺瞞的な行為」に該当する可能性があるとの見方を示した。
AIモデルが犯罪行為に関与した場合に、企業や最高経営責任者(CEO)へ刑事責任を問えるかどうかについては、一部の州の司法長官が検討を始めているとも言及した。
カン氏は、論点は新法制定の是非ではなく、現行法の執行にあると強調した。AIは新しい技術ではあるものの、既存規制の適用対象外にはならないという立場だ。
同氏は過去にニューヨーク・タイムズへ寄稿した際にも、「AIは新しいツールだが、既存法の適用が排除されるわけではない」とした上で、「FTCは新たな市場でも執行すべき法律を厳格に適用する」と表明していた。
さらに、競争法上の論点にも言及した。AI企業が顧客によるツール利用を追跡する過程で機微情報を不当に取得した場合、現行法が禁じる「不公正な競争手段」と見なされる可能性があると指摘した。
カン氏の主張は、AIを巡る問題は安全性にとどまらず、データ収集の手法や市場支配力の問題まで、既存の規制枠組みの中で扱えるというものだ。
具体例として、OpenAIの責任の可能性にも触れた。2026年7月に発生したHugging Faceのハッキング事件を巡り、OpenAIが法的責任を負う可能性があるとの見方を示した。
一方で、2026年8月にはNVIDIAがHugging Faceの買収で合意したとの報道が出ていることから、Hugging Faceが実際にOpenAIに対する訴訟に踏み切る可能性は低いとも述べた。
カン氏はFTC委員長在任中も、AIの商用化競争が加速する中でFTCの役割を明確にしてきた。当時は、「公正な競争を促進し、不公正または欺瞞的な行為から米国民を守るという2つの任務を、どう最善の形で果たすかを綿密に検討している」と記している。
その上で、「利用者を大規模に搾取する事業モデルや慣行は決して容認しない」との姿勢も示していた。
市場の受け止めは分かれている。オンライン上では、OpenAIやAnthropicが製品の欠陥や、いわゆる暴走問題を外部要因であるかのように扱っているとの批判も出ている。
ユーザーのハンター氏は、こうした企業が巨額の収益を上げながら自社製品の安全性を確保できないのであれば、解決策が示されるまで製品を投入すべきではないと主張した。
今回の発言は、AI規制を巡る議論の重心を、新法の必要性から現行法執行の可能性へ移すものとして注目される。今後、米規制当局や州政府が、消費者被害や犯罪への関与、機微情報の収集といった問題に対し、どの法的根拠で執行に踏み切るかが焦点となりそうだ。