Nvidiaのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は、先端AIモデルの開発ペースを意図的に落とすべきだとする議論に反対し、新たな法整備や独占禁止法の適用除外は不要だとの考えを示した。AIの安全性は重要だと認めつつも、対応は既存の制度の枠内と工学的な取り組みで十分だと強調した。
15日、米CNBCによると、フアン氏はAIの安全性を巡る議論について、新法の制定や独占禁止法の緩和に踏み込む必要はないと述べた。
発言のきっかけとなったのは、Anthropicのダリオ・アモデイCEOが13日に公表したエッセイだ。アモデイ氏は、先行するAI研究機関が「最前線の開発ペース」を調整し、より高性能なモデルの開発を意図的に遅らせることで、評価や安全対策のための時間を確保すべきだと提案した。そのうえで、こうした協調には政府の仲介や独占禁止法の適用除外が必要になる可能性があると主張した。
これに対し、フアン氏はCNBCの番組「Mad Money」で異論を唱えた。「企業が基礎的なエンジニアリングを適切に行い、製品を出荷する前に新しい法律や独占禁止法、新たな規制が必要だという考えは、まったく不要だ」と述べた。
さらに、「すでに十分な法律と規制がある」とも語り、製品の信頼性や機能は既存の制度の中で対応できるとの認識を示した。
今回の論点は、競合関係にあるAI企業が開発ペースや市場投入の時期を共同で調整した場合、法的な問題が生じ得る点にある。一般に、競合企業同士が生産量や供給を制限する合意は独占禁止法の対象となり得るため、AI企業がモデル開発や投入時期を協調して抑えれば、法的リスクを伴う可能性がある。
フアン氏は、安全性の確保は開発プロセスの中で解決すべき課題だとも強調した。「安全は工学の問題であり、試験も工学の問題だ」とし、製品の準備が整っていなければ投入を見送り、試験と開発を続けるべきだと述べた。
一方で、AIの安全性そのものを軽視しているわけではないことも明確にした。「AIの安全性は現実的な課題だ」と述べ、人々が使う製品を安全に設計することは明確な責務だと指摘した。企業は可能な限り速くイノベーションを進めるべきだが、安全性を欠いた製品を市場に出すほど拙速であってはならないとも付け加えた。
高度化したAIが人類の存続を脅かしかねないとの懸念については、距離を置く姿勢を示した。「2030年に私たちは死なない」と述べ、多くの開発者や企業がAIを適切に開発し、安全性とセキュリティーの保護策もあわせて進化していくとの見方を示した。
アモデイ氏はエッセイで、AI開発の速度を管理する3段階のアプローチも提示した。各研究機関に外部の安全評価者を配置したうえで、安全基準を巡る民主主義国家間の協調を進め、十分に検証されていないAIの進展速度に一定の制限を設けるという内容だ。
特に、影響力の大きいAI企業が共同で開発ペースを調整する仕組みについては、法的なハードルが高く、政府の支援が必要になる可能性があるとも記した。
この論争は、Nvidiaの事業とも無関係ではない。NvidiaはAIブームを追い風にAI半導体市場の中心的企業へと成長しており、AI開発の減速はAIインフラ投資に関わる事業環境にも影響し得る。
同社はAnthropicとOpenAIを主要顧客に抱える一方、自社のAIモデル開発も進めている。
AIの安全性を確保するために開発速度そのものを抑えるべきか、それとも各社が既存の規制の枠内で安全性を高めながら開発を続けるべきか。今回の応酬は、その是非を巡る業界内の温度差を浮き彫りにした。