ビットコイン採掘企業の間で、採掘事業を止めてAI(人工知能)やHPC(高性能コンピューティング)向けインフラへ転換する動きが広がっている。採掘の採算が悪化する一方、AIデータセンター需要は急拡大しており、既存の電力設備や用地を別用途に振り向ける流れが加速している。
15日付のブロックチェーン専門メディアCryptopolitanによると、上場するビットコイン採掘企業の中でも、採掘事業を事実上停止する事例が出始めた。一部企業は違約金を支払ってでも次世代採掘機の契約を解消し、AI・HPC分野へ転換している。
代表例の1つが、かつてBitfarmsとして知られていたKeelだ。Keelは6月29日、Panther Creek、Scrubgrass、Sharonの各採掘施設を全面停止した。4月にはMoses Lakeの施設も停止している。
CoinSharesの2026年2Q採掘レポートによると、Keelの3Qの採掘売上高はゼロとなる見通しだ。上場採掘企業でハッシュレートが事実上ゼロに落ち込んだ初の事例とされる。
採掘停止に伴う負担も重い。Keelは機器の早期償却などが響き、四半期の粗利益率はマイナス285%に落ち込んだ。平均6万9100ドルで1085BTCを約7500万ドルで売却しており、残る1861BTCも年末までに処分する計画という。
Core Scientificも採掘縮小に伴うコストを計上している。同社は、BlockのProto事業部門と結んでいた次世代3ナノ採掘チップ約15EH/s分の契約を解消するため、4190万ドルを支払ったと伝えられた。
自社採掘部門の粗利益も56%減少した。経営陣は、残る採掘設備については電力契約を履行できる範囲にとどめて運用し、施設の他用途への転用を進めていると明らかにした。
Cipher Digitalも、追加の採掘設備投資は行わない方針を投資家に示した。2027年末までに採掘事業から離脱する見通しとしている。
採掘施設をAIインフラへ転用する動きも本格化している。Hyperscale Dataは9月1日、米ミシガン州Dowagiacの施設でビットコイン採掘向け電力の供給を止め、AIコロケーション向けテナントの受け入れ準備に入った。
同社がカリフォルニア州のあるネオクラウド企業と結んだ20MW規模の契約は、10年間の総額で12億ドル超に上るという。顧客が追加の32MWオプションを行使した場合、契約規模は最大30億ドルまで拡大する可能性がある。ウィリアム・ホーンCEOは、採掘停止によって当該拠点の電力とインフラを新規顧客向けに集中投入できるようになったと説明した。
こうした事業縮小の動きは、ビットコインネットワークのハッシュレートにも表れている。Hashrate Indexによると、平均月間ハッシュレートは2026年1Qの約1066EH/sから2Qに1004EH/s、3Qには940EH/sへ低下した。2Qから3Qにかけては約6.3%減り、2025年12月の高値と比べると約12%低い水準にある。
背景にある最大の要因は、採掘採算の悪化だ。CoinSharesによると、2026年2Qに上場採掘企業がビットコイン1BTCを採掘するための加重平均現金コストは約7万5500ドルだった。一方、2Q末時点のビットコイン価格は5万8400ドルにとどまった。
前四半期も構図は同じだった。採掘コストは約7万9995ドルだったのに対し、ビットコイン価格は6万8000〜7万ドル水準にとどまった。採算悪化を受け、上場採掘企業は保有ビットコインの売却を進め、保有高のピーク以降に1万5000BTC超が市場に放出されたと集計された。
一方で、AI・HPCインフラ市場には大型案件が相次いでいる。業界で公表されたAI・HPC関連の契約総額は700億ドルを超えた。代表例として、IRENはMicrosoftと97億ドル規模の契約を締結し、TeraWulfはAnthropicと約190億ドル規模の契約を結んだ。Core Scientificも、AI・HPCへの転換を通じて140億ドル超の契約売上を見込むと伝えられた。
採掘業界では、今回の動きを一時的な市況悪化ではなく、ビジネスモデルの構造変化とみる見方が出ている。Luxorのイーサン・ベラ最高執行責任者(COO)は、この流れを「循環的な底ではなく構造的変化」と位置付けた。採掘企業は、もはや単なるビットコイン採掘会社ではなく、エネルギーとAIインフラ資産を持つ企業として評価されつつあるという。
ビットコインに批判的なPeter Schiffも、AIがビットコインにとって必ずしも追い風にはならないとの見方を示した。AIもビットコイン採掘と同様、資本、電力、データセンター空間を巡って競合する分野だというのが理由だ。
いったんAIやHPC向けに転用されたデータセンター用地は、再びビットコイン採掘施設へ戻しにくい可能性がある。The Energy Magのウルフィ・ジャオは、マルチギガワット級の電力インフラがAI・HPCコロケーション向けに改修されれば、従来の採掘用途へ戻すのは容易ではないと指摘した。
同氏は、上場採掘企業のハッシュレート縮小が今後も四半期ごとに続くと予想した。規制環境も事業転換を促す要因になっている。CoinSharesによると、米国30州ではデータセンター開発を制限または猶予する措置が少なくとも225件確認され、このうち151件は現在も有効という。ニューヨーク州は7月14日、州レベルでは初めてデータセンター開発の中断措置を実施した。
もっとも、すべての採掘企業が採掘事業を手放すわけではない。BitdeerはAI事業とビットコイン採掘を並行する戦略を選んだ。Bitdeerのハリス・バシット最高戦略責任者(CSO)は、Anthropicと結んだ16年契約のコンピュート案件とは別に、採掘事業は維持すると述べた。AI・HPC契約の対象にならない電力やデータセンター容量をビットコイン採掘に充て、稼働率を高める狙いだ。
市場の評価にも差が出ている。AI・HPC契約を確保した採掘企業の平均先行売上倍率は12.9倍と、契約を持たない企業の3.7倍を大きく上回った。
ビットコイン採掘業界の競争力は、単純なハッシュレート拡大から、電力とデータセンターをどれだけ効率的に活用できるかへ移りつつある。採掘採算の悪化とAI・HPC需要の拡大を受け、既存の採掘インフラは別の用途へ再配置され始めた。
この流れが続けば、ビットコイン採掘企業は単なる採掘会社ではなく、電力とデータセンターを基盤にAIインフラを提供する企業へと性格を変えていく可能性がある。同時に、採掘企業のハッシュレート低下が続けば、ビットコインネットワークの採掘産業構造にも長期的な変化が及ぶ見通しだ。