生成AIが情報収集や整理の枠を超え、難しい意思決定を支える手段として使われる場面が増えている。もっとも、専門家は結論そのものをAIに委ねる使い方について、短期的な安心感は得られても、長期的には自分で判断する力や自信を損なう恐れがあると警鐘を鳴らす。
米ITメディアTechRadarが9月11日(現地時間)に報じたところによると、学習アプリHeadwayが成人2000人を対象に実施した調査では、46%が難しい決断を下す際にAIを使った経験があると答えた。35%はストレスを感じる場面で自然にAIを頼るとし、21%は「何をすべきか」を決める際、AIの助けなしに1週間過ごすのは難しいと回答した。
Headwayはこうした傾向を「Decision rot」と表現した。AIが単なる情報収集や選択肢の整理にとどまらず、意思決定に伴う不快感や不確実性そのものを避けるための手段として使われている状況を指す。
男女差もみられた。難しい決断を避けるためにAIを使うと答えた割合は、男性が53%、女性が40%だった。ChatGPTのような対話型AIが、素早く断定的な答えを返すことが、手軽な解決策として受け止められているとみられる。
Headwayのカウンセラーで、関係性の専門家でもあるスーザン・デジス=ホワイトは、外部の視点を参考にすることと、意思決定のプロセス自体を外部に委ねることは別だと指摘する。不確実性に向き合い、自分で重要な選択を重ねる経験が、自らの判断を信頼する力を育てるという。
実際、同じテーマでもAIへの尋ね方次第で返答は大きく変わる。TechRadarは、8週間の夜間ドローイング講座に申し込むべきかをChatGPTに尋ねた事例を紹介した。
最初に投げかけたのは、「どうすべきか」という直接的な質問だった。これに対しChatGPTは、画面から離れて定期的な活動ができ、8週間も長すぎないとして、すぐに受講を勧めた。
ただ、この答えは個人の事情を十分に踏まえたものではなかった。受講料が予算に見合うか、火曜夜の予定が実際に負担にならないか、新しい技術を学ぶだけの時間や忍耐力があるかといった重要な要素が抜け落ちていた。誰にでも当てはまる一般論に近い内容だったという。
そこで筆者は、ChatGPTに結論を出させるのではなく、「意思決定コーチ」として振る舞うよう求めた。優先順位や制約条件を洗い出す質問を行い、不足している情報や誤った前提を点検したうえで、選択肢とトレードオフを整理する役割を与えた。最終判断はあくまで本人が下す前提だ。
すると対話の進み方は変わった。ChatGPTはまず、講座を通じて何を得たいのかを確認した。ドローイングやペインティングの基礎を身につけたいのか、外で新しい活動を始めたいのか、人と会う機会がほしいのか、日常とは異なる創造的な体験を求めているのかを順に整理した。平日夜の受講が活力になるのか、それとも負担になるのかも問い直した。
筆者が目的や生活パターンを説明すると、ChatGPTは受講のメリットとデメリットを整理したが、どちらを選ぶべきかは断定しなかった。その代わり、どの条件がそろえば受講の価値が高いのか、どの条件なら見送った方がよいのかを示した。
専門家は、こうした使い方こそ生成AIのより適切な活用法になり得るとみている。デジス=ホワイトは、意思決定に伴う不快感が生じるたびにAIに頼れば、その場の安心感は得られても、自分の意思決定能力を鍛え、自信を深める機会を失いかねないと警告した。
重要なのは、AIがどんな答えを返すかより、利用者がAIにどのような役割を与えるかだ。簡単な選択であればAIの提案が役立つ場合もあるが、時間や費用、人間関係、生活様式が絡む重要な判断では、AIを「決定権者」ではなく「検討相手」として使うのが適切だという。
生成AIが日常に深く入り込むなか、今後は「AIに何を尋ねるか」だけでなく、「AIにどこまで判断を任せるのか」という線引きも、活用の重要な基準になりそうだ。