Fujitsuは9日、ダイヤモンド中の電子スピンを量子ビットとして利用する「ダイヤモンドスピン方式」の量子コンピュータ試作機を世界で初めて開発したと発表した。超電導方式とは異なる新たな実装方式として、高温動作やノイズ耐性、量子ビット同士の接続性を生かし、大規模化につなげる狙いだ。
今回の試作機では、炭素原子の一部を錫に置き換え、その間に空孔を設けた特殊なダイヤモンド構造を採用した。この構造によって生じる電子スピンの量子的な性質を、情報処理の基本単位である量子ビットとして用いる。
Fujitsuは2020年から、オランダのデルフト工科大学と関連技術の研究を進めてきた。ダイヤモンド系量子コンピュータでは、炭素の一部を窒素に置き換える手法が一般的だが、同社は錫を使った独自構造を採用したとしている。
同社によれば、この方式の利点の1つは量子状態を比較的安定して維持しやすい点にある。量子ビットは外部環境のわずかな変化でも影響を受けやすく、誤りの原因になりやすいが、ダイヤモンドスピン方式は外部ノイズへの耐性が高く、計算精度の向上が見込めるという。
量子ビット同士をつなぎやすい点も特徴だ。量子コンピュータでは、量子ビット数を増やすだけでなく、それぞれを安定して接続し制御できるかが重要になる。Fujitsuは、大規模システムへ拡張する過程でも優位性があるとみている。
量子コンピューティング分野では、回路を極低温まで冷却して動作させる超電導方式が先行している。Fujitsu自身も超電導方式の量子コンピュータを開発している。一方、今回公表したダイヤモンドスピン方式は、より高い温度での動作が可能で、量子ビット間の接続性にも強みがあることから、別系統の有力な基盤技術として位置付ける。
同社は、この技術を単一の量子コンピュータの性能向上にとどめず、異なる方式で構築した量子コンピュータ同士を接続し、連携して計算できる技術へ発展させる構想も示した。
Fujitsu研究所フェロー兼量子研究所長のサトウ・シンタロウ氏は、ダイヤモンドスピン方式の大規模化を進めるとともに、量子コンピュータ同士を接続して計算できる技術としても開発を継続する考えを示した。
量子コンピューティング市場では、どの方式が主流になるかはなお定まっていない。こうした中、Fujitsuは超電導方式とダイヤモンドスピン方式を並行して開発し、計算精度、拡張性、接続性を同時に確保する戦略を描く。将来的には、複数方式の量子システムを接続する「異種量子コンピューティング」も視野に入れる。
もっとも、今回の試作機が実用レベルの性能を示したわけではない。今後は、大規模化した際に量子状態をどこまで安定して維持できるかに加え、計算効率や誤り率をどの水準まで改善できるかが課題となる。
今回の開発は、量子コンピュータの競争が単なる量子ビット数の拡大だけでなく、どの素材や構造で安定した計算環境を実現するかという段階に広がっていることを示している。ダイヤモンドスピン方式が超電導方式に並ぶ有力な選択肢となるか、今後の動向が注目される。