写真=Reve AI

AIを悪用したサイバー攻撃の拡大を背景に、企業のサイバーセキュリティ投資が量から配分へと軸足を移しつつある。予算全体を積み増すだけでなく、どの分野に優先的に投じるかを見直す動きが広がっている。

The Informationによると、大企業では、従業員によるAI利用を監視するシステムや、攻撃者に先んじて脆弱性を見つけるAIモデル、パッチ適用を迅速化するAIベースのツールへの支出が増えている。

一方で、従来型の脆弱性管理ソフトやログ収集ツール、侵入テスト(ペネトレーションテスト)サービスへの支出を抑え、コスト削減を進める企業もあるという。The Informationは、こうした流れがCisco、SentinelOne、Rapid7など既存ベンダーにとって逆風となる可能性があると報じた。

Anthropicが4月に先端AIモデル「ミトス」を発表して以降、AIの悪用によるサイバー脅威への警戒感は企業の間で一段と強まった。その結果、AIセキュリティ市場の拡大にもつながっているという。

イスラエルのスタートアップZafranのサナズ・ヤシャルCEOはThe Informationに対し、「大企業との契約には通常数カ月かかるが、ミトスのリリース後5週間で大手銀行3行と新規契約を結んだ」と語った。

AI脅威の拡大を受け、主要AIモデルの開発企業もセキュリティ市場で存在感を強めている。OpenAIは最近、「GPT-6 Astra」を発表し、セキュリティ担当者による脆弱性の発見やパッチ適用を支援できる点を打ち出した。8月には、サイバーセキュリティ業界のベテラン幹部を最高売上責任者(CRO)に起用した。

AIセキュリティを手がける新興企業も、企業向け市場で台頭している。モバイル広告企業AppLovinは、従業員のAI利用を社内で監視するAIエージェントを提供するPluto Securityと、AIで脆弱性を検知してパッチを提案するFig Securityを採用した。Pluto SecurityとFig Securityはいずれも今年参入した企業だ。

AppLovinはこのほか、AIが生成したコードの脆弱性を分析するソフトウェアスタートアップEndor Labsの製品も利用している。The Informationによると、同社は新興企業のAIセキュリティツールを割安な価格で導入したことで、年間約100万ドル(約1億5000万円)に達するサイバーセキュリティソフトウェア予算の増加を一定程度抑えられたという。

一部では、こうしたスタートアップが既存の有力セキュリティ企業の領域を部分的に置き換える事例も出始めている。

AppLovinはこれまで、従業員が使うPCなどのエンドポイント保護にCrowdStrikeとSentinelOneのソフトを導入してきた。The Informationによると、PlutoなどのAIベース技術のほうが、従業員がAIにどのデータを入力しているかをより効果的に把握できるため、既存ソリューションへの支出を見直しているという。

The Informationは、AppLovinの最高情報セキュリティ責任者(CISO)ジェレマイア・クン氏が、CrowdStrikeとSentinelOneの類似AIセキュリティツールについて「優れているとは言いがたい」と評したと伝えた。

これに対し、CrowdStrikeの広報担当者は「ある顧客が特定モジュールを購入しないと判断しただけで、競合製品に置き換えられたとは言えない。とりわけ、その顧客が引き続きCrowdStrikeのプラットフォームを利用している場合はなおさらだ」と反論した。その上で、「CrowdStrikeのAI検知・対応ソリューションは、リリース後3四半期で79倍超の成長を遂げた」と説明した。

それでも、LLM(大規模言語モデル)ベースの脆弱性分析ツールの普及によって、Qualys、Tenable、Rapid7など、LLM時代以前から地位を築いてきた既存企業の足場が揺らぐとの見方は根強い。ChevronとCostcoでCISOを務め、現在は企業向けにサイバーセキュリティ助言を行うジョン・レイパー氏は、「従来の脆弱性スキャナーは1990年代半ば以降、実質的に大きな変化がなかった。大量の情報を集めるだけで、文脈を欠いたデータが多く、実務では使いにくかった」と指摘。その上で、「従来型スキャナーはLLMベースのスキャナーに置き換わる」との見方を示した。

IT市場調査会社Gartnerによると、AIセキュリティ市場は2027年に前年比約69%増の47億8300万ドルに達する見通し。2028年には約77億ドルまで拡大すると予測している。さらにGartnerは、2029年までに、アクセス制御の脆弱性やプロンプトインジェクションを悪用した攻撃が、AIエージェントを狙うサイバー攻撃の成功事例の半数以上を占めるとみている。

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