Teslaは米テキサス州オースティンで、ロボタクシー専用車「Cybercab」の一般向け試験運行を開始する。カメラ中心の自動運転戦略を掲げてきた同社にとって、実際の乗客サービスでその有効性を問う重要な節目となる。
2日(現地時間)付のThe Vergeによると、Teslaはステアリングやペダルを備えない2人乗りのCybercabを、自動運転事業拡大の中核に据える。長年打ち出してきた自動運転の構想を、実運用で検証する初の本格局面といえる。
Teslaは、競合各社がLiDARやレーダー、カメラを組み合わせるのに対し、カメラ中心の方式を一貫して採用してきた。Cybercabは、こうした思想を最も先鋭化した車両だ。
車両には、Teslaの完全自動運転ソフトウェア「Full Self-Driving(FSD)」の修正版を搭載する。既存のTesla車向けFSDは、ドライバーの常時監視を前提とするレベル2の運転支援機能だが、Cybercabは車内に運転者がいないことを前提とし、異常時には遠隔オペレーターが介入する運用を想定する。
ステアリングもペダルもないため、自動運転システムに不具合が生じても、車内から人が直接操作して対処することはできない。
安全性を巡る議論も続く。FSDとAutopilotは、これまで複数の衝突事故や死亡事故との関連で調査対象となってきた。
従来のFSD搭載車では、ドライバーの監視を前提に、トラブル時の法的責任は主に運転者側に帰属する構図だった。これに対し、完全無人車では責任の所在が変わる可能性があり、Cybercabの運行が広がるほどTeslaが直接負う法的リスクも大きくなり得るとの見方がある。
◆カメラだけで十分か
カメラ中心の自動運転は、Teslaの最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が数年にわたり公然と擁護してきた戦略だ。マスク氏は2019年の投資家向けイベントでLiDARを「無意味だ」と評し、LiDARに依存する自動運転企業を批判した。
人間が目で周囲を認識して運転している以上、車両も視覚情報だけで十分だというのが同氏の基本的な考え方だ。
もっとも、業界の主流は別の方向にある。WaymoはカメラにLiDARとレーダーを組み合わせたマルチセンサー方式を採用し、完全無人の配車サービスを運営している。
Waymoは、カメラ性能自体は大きく向上したものの、完全自動運転と人間を上回る水準の安全性を目指すのであれば、カメラのみでは不十分だとの立場を示している。
Teslaがカメラ中心方式にこだわる理由の1つは、コストと拡張性にある。Cybercabはセンサー構成を絞り込み、ステアリング、ペダル、サイドミラーも省くことで、生産コストを抑える設計を採用した。
マスク氏は2024年の「We, Robot」イベントで、Cybercabの価格が3万ドルを下回るとの見通しを示した。個人が複数台を購入し、自らロボタクシー事業を運営できる構想も打ち出している。
◆残る課題と安全論争
商用化に向けては規制面の壁も残る。TeslaがCybercabを一般消費者向けに販売するには、ステアリングとペダルの装備を求める連邦自動車安全基準について、例外承認を得る必要がある。
さらに、カリフォルニア州などで完全無人車を公道で走らせるには別途許認可が必要となる。車両が実際に安全に運行できることをどう立証するかも課題だ。
運用面でも解決すべき問題は多い。車両が道路上で停止したり故障したりした場合、他の自動運転企業は遠隔支援に加え、現場の技術スタッフを派遣して車両を移動させている。
Cybercabはステアリングもペダルも持たないため、遠隔オペレーションは安全確保の要となる。TeslaがCybercabにStarlink接続を搭載した背景にも、こうした運用を支える狙いがあるとみられる。
Teslaは2025年6月からオースティンでロボタクシーサービスを運営しており、この地域にはModel Yを約110台投入したと推定される。ただし、公道を走る車両のすべてが有償の乗客輸送に使われていたわけではない。
今回のCybercabの一般公開は、既存のロボタクシー事業をさらに一歩進める取り組みと位置付けられる。
Teslaは自社の安全統計も積極的に公表している。安全ダッシュボードでは、監督型FSDを使用した車両の衝突率が、手動運転の車両に比べて40〜90%低いと主張する。
累計走行データは約20億マイル(約32億キロ)に達するとしている。ただし、FSDは現在も運転者の常時監視を必要とするレベル2機能にとどまる。
米道路交通安全局(NHTSA)は2021年以降、衝突前30秒以内にレベル2運転支援システムが作動しており、人身被害が発生した、または車両のけん引が必要になった事故の報告を求めている。NHTSAはレベル2システム関連事故を別途集計しており、同一事故が重複計上される可能性もあると説明している。
Teslaはこの報告制度において、業界全体の事故報告の約85%を占めるとされる。2013年から2025年にかけては、AutopilotまたはFSDに関連した死亡事例がおよそ65件集計された。Teslaの安全統計を巡っては、外部検証の有無や比較基準の妥当性を問う声があり、NHTSAも関連事故データを調査している。
Cybercabの投入は、Teslaの自動運転技術とカメラ中心戦略が、実際の乗客サービスでも成り立つかを占う試金石となる。低コストで大規模展開できる可能性に投資家の期待は大きい一方、利用者や社会の信頼を得られるかは別の問題だ。オースティンでの初期運用実績と安全対応力が、今後の拡大ペースを左右しそうだ。