米政府が、FTX破綻に関与したキャロライン・エリソン氏とニシャド・シン氏の保有していたAnthropic株式を没収後、既存投資家に売却していたことが分かった。売却代金をFTX被害者への補償に充てるのか、政府が管理を続けるのかは明らかになっていない。
Business Insiderが8月31日(現地時間)に報じた。連邦政府は裁判所の没収命令に基づき、エリソン氏とシン氏が保有していたAnthropic株式の所有権を取得し、既存のAnthropic投資家に売却したという。
両氏はサム・バンクマン=フリード被告とともに、2022年のAnthropicシリーズB投資に参加していた。裁判記録によると、投資額はバンクマン=フリード被告が5億ドル、シン氏が4000万ドル、エリソン氏が1000万ドルだった。
バンクマン=フリード被告が保有していたAnthropic株は、FTXの破産手続きに組み込まれ、債権者への返済原資に充てるため売却された。一方、エリソン氏とシン氏の株式は刑事没収の対象となった。
連邦判事は両氏への量刑言い渡しに合わせ、当該株式の没収を命じた。政府は2025年2月にエリソン氏分、同年4月にシン氏分の所有権を取得した。
その後、米連邦保安官局が当該株式を売却したが、売却時期や買い手、売却額、政府の受領額はいずれも公表されていない。米司法省は、資産売却と被害者補償に関する情報は機密に当たるとしている。
Anthropicの企業価値が急騰していることもあり、売却代金の規模に関心が集まっている。AnthropicはAIブームを追い風に評価額を急速に伸ばし、2025年3月のシリーズE時点では615億ドルだったが、2026年初めのシリーズGでは3800億ドルに拡大した。
さらに、同社の企業価値は今年5月時点で9650億ドルとされた。この水準を基準にすると、シン氏とエリソン氏が保有していた持ち分の価値は、足元で数十億ドル規模に膨らむ可能性がある。
もっとも、政府の実際の売却価格はこれを大きく下回った可能性がある。UCLAでベンチャー投資戦略を教えるオラブ・ソレンソン氏は、売却時期によっては両氏の持ち分価値が3億〜11億ドルだったと推定した。
PitchBookのハリソン・ロルフェス氏は、2億5000万〜6億3000万ドルとの見方を示している。
焦点となるのは、売却代金の帰属先だ。FTXの被害者は数百万人規模に上る可能性があるとされ、裁判所は通常の賠償ではなく、米司法省が運用する「リミッション(remission)」手続きを通じて被害者を補償する枠組みを選んだ。
ただ、この手続きは司法省の裁量が大きく、実際にどの程度の資金が被害者に戻るのかは見通せない。ハーバード・ロースクールで没収をテーマに講義を担当するダンカン・レビン弁護士は、透明性に乏しい手続きだと指摘した。
証券訴訟に詳しいマイケル・バクナー氏も、政府が捜査や起訴にかかった費用に充てるため、資金を留保する可能性があると述べた。
現時点で、Anthropic株式の売却代金がFTX破産財団に移された事実は確認されていない。FTX破産財団の裁判所提出書類によると、今年6月末時点では当該資金は財団に移転されていなかった。
シン氏側は、売却代金は被害者に速やかに戻すべきだとの立場を示している。シン氏の弁護人アンドリュー・ゴールドスタイン氏は、政府が売却代金をFTX被害者に早期分配することをシン氏が望んでいると明らかにした。
一方、エリソン氏側はコメントしていない。FTX被害者のスニル・カブリ氏も、政府は売却代金を被害者補償に充てるべきだと主張した。
Anthropicの企業価値が上昇を続け、将来的な上場の可能性も取り沙汰されるなか、旧FTX関係者が保有していた株式の売却規模と資金の行方に注目が集まりそうだ。