韓国電池大手3社の業績見通しが複雑さを増している。これまで収益動向を左右してきた電気自動車(EV)販売に加え、人工知能(AI)データセンターの増設に伴う電力需要の拡大が、エネルギー貯蔵装置(ESS)向け需要を押し上げているためだ。米国ではEV向け出荷が減少する一方、ESS設置は急増しており、生産ラインや投資資金もESSへシフトしつつある。
業界によると、EV需要の停滞が続くなか、韓国電池大手3社の米国生産ラインではESS向けへの切り替えが進んでいる。ハナ証券によれば、6月の米国EV電池出荷量は9.4GWhと前年同月比7%減だった。
これに対し、同月の米国ESS新規設置量は13.0GWhと76%増加した。EV需要の弱さが続く一方で、AIデータセンターに伴う電力需要の拡大が、電池需要の重心をESS側へ移しつつある。
こうした変化により、韓国電池大手3社の業績を左右する要因も変わってきた。もはやEV販売の伸びだけでは、各社の稼働率や収益動向を十分に説明できない状況になっている。
米国のEV販売は引き続き低迷している。7月の販売は2桁減となり、需要停滞に大きな改善は見られない。一方で、データセンターの電力需要、電力網の効率化、エネルギー安全保障といった要素が、新たな電池需要を生む軸として浮上している。
企業別にみると、韓国勢のEV向け出荷減少幅は市場平均を上回った。市場調査会社SNEリサーチによると、6月の米国市場でLG Energy Solutionの出荷量は1.5GWhと42%減だった。
SK Onは0.6GWhで39%減、Samsung SDIは0.3GWhで69%減だった。これに対し、米国市場で66%のシェアを持つPanasonicは5.3GWhと33%増だった。なお、同月の世界EV電池出荷量は135.6GWhで30%増となった。
ESS市場の動きは対照的だ。調査機関ロモーションによると、6月の世界ESS新規設置量は50.8GWhと51%増加した。
このうち米国は13.0GWhを占めた。なかでもグリッド向けは12.0GWhで81%増だった。米国の上半期累計設置量は34.5GWhと29%増、世界全体では182.2GWhで41%増となった。
6月の地域別設置量は、欧州が4.2GWhで249%増、中国が12.7GWhで15%減だった。
EV需要そのものには回復の兆しが見えない。米自動車専門誌ウォーズオートの集計によると、7月の米国EV販売台数は9万3212台で、前年同月比32.3%減だった。
このうちバッテリー式電気自動車(BEV)は7万3443台で37.2%減。年初来累計では64万1411台と16.2%減となった。
こうした変化の背景には、ESS需要を支える論理の変化がある。ハナ証券によれば、2025年までのESS成長は、環境対応や太陽光発電を軸とする脱炭素の流れに支えられていた。
足元では、データセンター増設に伴う電力不足が新たな起点になっている。建設期間の短い太陽光発電の導入需要が増え、それにあわせてESS需要も拡大する構図だ。
特にAIデータセンターは、短時間で電力需要が急減した後、再び急増する特性があるとされる。このため、需要と供給の変動を吸収する緩衝手段としてESSの必要性が高まっている。
制度面でも同じ方向の変化がみられる。米東部の電力事業者PJMは、自前の発電設備や別途の電力調達手段を確保できない50MW以上の新規データセンターについて、電力不足時には一般顧客より先に供給を停止する案を進めている。
これは、データセンター事業者に自家発電設備や蓄電設備の導入を促す措置とみられる。
データセンターの電力不足、電力網の効率化、エネルギー安全保障が、電池需要を左右する新たな要因として浮上している。
市場環境の変化に対応し、韓国企業も設備や資金をESSへ振り向けている。Samsung SDIは保有していたSamsung Display株の一部を4兆4500億ウォンで売却した。日本円換算では約4895億円に相当する。
開示資料では売却理由を「投資財源の確保および財務構造の改善」と説明した。業界では、ESSの生産能力拡充に充てられるとの見方が出ている。
ハナ証券は、この資金がGeneral Motors(GM)との合弁解消で確保した工場用地と組み合わさることで、少なくとも20GWh以上のESS向けリン酸鉄リチウム(LFP)生産能力の増強につながる可能性が高いと分析した。
LG Energy Solutionも、北米でのEV需要減速に対応してESS事業を拡大している。また、米政府と主要防衛企業向けに、ドローンや無人兵器システム用電池を供給する案も検討している。
もっとも、需要先のシフトが進んでも課題は残る。欧州市場における韓国3社合算シェアは、2023年の55%から2024年は45%、2025年は34%へ低下し、今年上半期は30%まで下がった。欧州市場で縮小したシェアを、他分野の需要でどこまで補えるかが焦点となる。
北米のESS需要は現在、LFPが中心だが、韓国企業はこれまで高ニッケル三元系を軸に生産能力を拡大してきた。LFPの量産体制をどこまで早く立ち上げられるかが、蓄電池市場のESSシフトで主導権を握るカギになりそうだ。
業界関係者は「今後はESS関連の受注発表が相次ぐ可能性がある」としたうえで、「EV需要の停滞が続いても、3社の見通しを販売カーブだけで判断することはできなくなった」と話した。