KTは、政府主導のAI事業「みんなのAI」にコンソーシアムで参画し、再起を図る。前回の国産AI基盤モデル開発プロジェクトでは初期選定を通過できなかったが、今回は国民向けAIサービスの実装と安定運用が主戦場となる。通信やクラウド、大規模な個人向けサービス運営で培ったノウハウを生かし、巻き返しを目指す構えだ。
KTは、国内のAIモデル企業やインフラ企業、国民向けサービスを手掛けるプラットフォーム事業者を幅広く束ねた陣容を組んだ。基盤モデルそのものの競争力を競った前回とは異なり、複数の国産モデルを組み合わせてサービスとして提供する体制づくりに軸足を移す。
◆ 基盤モデル選定で落選、1年で戦略転換
KTは、AIサービス、モデル、プラットフォーム、インフラ分野の国内企業とコンソーシアムを組み、「みんなのAI」事業に参加する。「みんなのAI」事業は、前回に続く政府主導の大型AIプロジェクトで、国民向けサービスとしての実装力や運用力が問われる案件となる。
KTは昨年、政府の基盤モデル開発プロジェクトにもコンソーシアムで参加したが、最初の選定段階で落選した。当時は15のコンソーシアムが競い、Naver Cloud、Upstage、SK Telecom、NC AI、LG AI Researchの5コンソーシアムが精鋭チームに選ばれた。
科学技術情報通信部は1次評価で5チームから4チームを選ぶ方針だったが、独自性の問題などを理由に3チームのみを通過とした。KTは、残る1枠を争う追加選考には参加しなかった。
この基盤モデル開発プロジェクトは、国内企業が独自開発した基盤モデルの技術競争力確保に重点を置くものだった。初期の選定では、AIモデル開発の経験や技術力が主な評価項目となり、その後はベンチマークや専門家・利用者評価を通じて活用可能性も検証された。
KTは自社開発モデル「Mi:um」を保有していたものの、初期選定の壁を越えられなかった。業界内では、自社モデルの競争力が十分ではないとの見方も出た。SK Telecomが精鋭チーム入りし、LG UplusもLG AI Researchのコンソーシアムの一員として選定されたこととは対照的だった。
◆ UpstageやRebellionsなど国内陣営を結集
みんなのAIは、誰もが利用できる汎用AIチャットボットと公共AIエージェントの実装に焦点を当てる。独自性と性能が前回水準にある国産AIモデルを全体利用量の50%以上に適用すると同時に、他の国内企業のモデルも30%以上活用しなければならない。
このため、単一の自社モデルを高度化する力だけでなく、複数モデルを適切に接続し、安定的に運用する能力が重要になる。
KTコンソーシアムの特徴は、モデルからインフラ、サービスまで各領域の専門企業を広く取り込んだ点にある。AIモデル・プラットフォーム分野にはUpstage、Motif Technologies、NC AI、ActionPowerが参加する。このうちUpstageは前回プロジェクトで現在まで残っている精鋭チームで、Motif TechnologiesとNC AIもそれぞれ段階評価を経験した。
Motif Technologiesは直近の2次段階評価で落選したものの、モデル自体の競争力は高く評価された。グローバルAI評価機関AAII(Artificial Analysis Intelligence Index)のベンチマーク評価(配点25点)では11.9点を記録し、2次評価に進んだチームの中で最高点だったという。
Upstageは首位となった評価項目こそなかったが、全般に高い評価を得て3次評価に進んだ。
KTにとっては、Motif TechnologiesやUpstageなど、前回の選定を経験した国産モデルを活用できる点が強みとなる。インフラ分野にはRableup、Rebellions、VESSL AI Koreaが加わる。前回は「Mi:um」そのものの性能立証が課題だったが、今回は国内AI技術をどこまで効果的に束ね、サービスとして提供できるかが焦点になる。
◆ 個人向けサービス運用に強み、DaumやMUSINSAも参加
サービス分野は、KTが最も強みを見込む領域だ。KTコンソーシアムにはDaum、Saltlux、MUSINSA、Zigbang、ConnectWave、Mathpresso、EBS、BC Card、DeepSearchが参加する。検索、ショッピング、住居、教育、金融など、日常に密着したサービスを展開する事業者がそろった。
KT自身も移動通信を軸に、大規模な個人向けサービスを長年運営してきた。通信業界関係者は「みんなのAIのような大規模サービスでは、同時接続への対応、障害対処、セキュリティ確保など、大量の利用者を支える運用経験が重要になる。KTが最も強みを持つ分野の一つだ」と話す。
KTは、参加各社の専門性に自社の通信、クラウド、AI運用の能力を組み合わせ、国民が安定的に利用できるAIサービス基盤を整備する方針としている。
もっとも、競争は容易ではない。公募に参加したSKTは、自社モデルの競争力に加え、大規模な個人向けサービスの運営実績も持つ。Kakaoは、前回プロジェクトの精鋭チームだったLG AI Researchと連携し、LG UplusもKakaoコンソーシアムに加わる。KakaoTalkなどの大規模な利用者接点に、LG AI Researchのモデル競争力とLG Uplusの通信サービス運用経験を組み合わせる構図だ。
SKTは、前回の2次段階評価まで通過したA.X K2を保有する。評価では、大規模商用サービスへの搭載実績や、国防、製造、法務、税務など産業特化型エージェントの適用実証で高い評価を受けたという。
Kakaoコンソーシアムも、自社モデル「Kanana」とLG AI Researchのモデル、さらに大規模サービス運用力を兼ね備えた有力候補とみられる。
業界関係者は「KTは自社モデル単独でみると競合に先行しているとは言いにくいが、大規模加入者向けサービスの運用経験は明確な強みだ」と指摘する。その上で「みんなのAIは、前回よりもKTが強みを示しやすい事業だ。ここで成果を出せれば、今後の公共・企業向けAI案件の受注でも有効な実績になる」との見方を示した。