Google Cloudは、企業向けAIで広く使われてきた検索拡張生成(RAG)に代わる知識管理手法として、「OKF(Open Knowledge Format)」を公開した。企業の中核知識をベクターデータベースに格納して検索するのではなく、構造化した知識として管理し、明示的なリンクをたどって活用する考え方を示した。
Mediumに投稿されたテックブログ「Secret Dev」によれば、RAGは企業内のPDFや各種文書を小さな単位に分割して埋め込みを作成し、質問と意味的に近い情報を検索して大規模言語モデル(LLM)に参照させる手法だ。幅広い文書を扱いやすい半面、分割の過程で表や文脈が失われたり、古い情報が参照されたりする可能性がある。更新頻度が高いデータでは、埋め込みの再生成やインデックス管理の負担も大きい。
これに対しOKFは、企業知識を1つの「生きたウィキ」のように整備するアプローチを取る。基本単位となる「Knowledge Bundle」は、専用データベースではなく、YAMLのメタデータとMarkdown文書で構成されたディレクトリとして管理する。ディレクトリ構造そのものが概念の位置関係を表し、各文書には知識の種類、担当者、更新時点、出典などを記録する。
RAGとの大きな違いは、関連情報の見つけ方にある。RAGがベクター類似度を用いて関連文書を抽出するのに対し、OKFは文書内に明示されたリンクを順にたどって必要な知識に到達する。たとえば「売上」や「離脱率」といった主要指標の定義を確認したうえで、関連するデータベーススキーマや計算ルールへとたどっていく形だ。
Secret Devは、こうした手法によって、企業の中核業務ルールやデータ定義をより正確に管理できると説明している。開発者がデータベース構造を変更した際に、AIエージェントが関連文書を更新し、変更履歴を残すような運用も可能だという。知識がすべて一般的なテキストファイルとして保存されるため、Gitによるバージョン管理や監査にも対応しやすい。
もっとも、OKFがRAGを全面的に置き換えるわけではない。Secret Devは、過去レポートや顧客からの問い合わせ履歴、大量の非構造化資料のように、範囲が広く所在をあらかじめ厳密に定義しにくい情報については、RAGが引き続き有効だと指摘した。
一方で、税務識別番号や売上の定義、データベーススキーマのように、誤りが業務に直結する情報については、明示的に管理するOKFが適しているとした。企業向けAIの知識管理は、RAGかOKFかの二者択一ではなく、両者を組み合わせる方向に進む可能性が高いという。AIルーターが質問の性質を判断し、重要なルールや最新スキーマはOKF、大量の過去資料や非構造化情報はRAGで検索する形が想定される。