写真=Sung-hyun Cho(Databricks Korea技術統括)

Databricksの支援でEconomist Enterpriseがまとめた2026年版報告書「Making AI Deliver」によると、デジタルネイティブ企業はAI投資の優先度と活用範囲で全業種をリードする一方、AIを全社的な本番運用に定着させる成熟度では必ずしも首位ではないことが分かった。研究開発や製品開発では先行するものの、財務やサプライチェーンなどでは他業種に後れを取る分野も目立つ。

調査は8業種のグローバル企業の経営層1220人以上を対象に実施し、このうちデジタルネイティブ企業の経営層150人を含む。結果からは、AI導入への積極姿勢と、組織横断で安定運用できる体制整備との間にギャップがある実態が浮かび上がった。

AI投資意欲は突出

デジタルネイティブ企業の経営層の18%は、今後2年間で最重要の投資テーマとして「中核業務プロセス全体へのAIの大規模な組み込み」を挙げた。これは8業種で最も高く、全業種平均の9.8%の約2倍に当たる。次点のエネルギー・石油・ガス業界でも12.6%にとどまった。

この結果は、デジタルネイティブ企業にとってAIが単なる業務支援ツールではなく、製品、顧客体験、運営モデル、収益構造を左右する中核要素になりつつあることを示している。コスト削減や規制対応も重要だが、より本質的な課題は、AIを中核業務の中で反復的かつ安定的に稼働させる基盤をどう整えるかにある。

国内でも同様の動きが出ている。T map mobilityは、大規模モビリティデータを活用したパーソナライズ推薦の高度化を進める一方、データの専門家でない人材でも必要なデータを自ら探索・分析できる環境を整備している。

併せて、きめ細かなアクセス権限の設定とデータオーナーシップの仕組みも構築し、データ活用の範囲拡大とガバナンス強化を両立させた。AI活用を広げるには、個別モデルの開発だけでなく、構成員が信頼できるデータを安全に扱える共通環境が必要であることを示している。

導入拡大と本番運用には差

調査では、デジタルネイティブ企業は全業務領域で業界平均を上回る水準でAIを活用していた。ただし、報告書が示す「at scale」は、複数の業務ワークフローへの展開に加え、運用体制への安定的な組み込みまでを含む概念だ。導入範囲の広さと、本番運用への定着度は分けて見る必要がある。

報告書が「Fully Embedded at Scale」と定義する段階は、100人以上がAIを実際に利用し、サービスレベル合意(SLA)に基づいて運用され、性能と事業への影響が継続的に監視されている状態を指す。

この基準でデジタルネイティブ企業が首位だったのは、研究開発(R&D)と製品開発に限られた。財務は8業種中7位、運用・サプライチェーンは6位にとどまった。

一方、通信業界では、AIの全社展開を最優先の投資課題とした比率は7.9%と、デジタルネイティブ企業の18%を下回った。それでもIT、法務・コンプライアンス、財務、営業・顧客サービス、運用・サプライチェーンの5領域で、より高い本番運用の成熟度を示した。

これがいわゆる「AIスケーリング格差」だ。伝統産業が全面的にデジタルネイティブ企業を上回ったという話ではない。デジタルネイティブ企業は、依然としてAI活用の広がりと投資意欲で先行している。ただ、今後の競争力を左右するのは、AIプロジェクトをいくつ始めるかではなく、導入したAIをどこまで安定した運用体制に載せられるかだ。

高ROIでも運用成熟度は別

もっとも、デジタルネイティブ企業がAIの価値を引き出せていないわけではない。回答者の約92%は、AI投資収益率(ROI)が当初計画を上回っていると答え、全業種平均の84%を上回った。

問題は、高いROIがそのまま全社的な運用成熟度を意味しない点にある。個別プロジェクトの成功と、複数部門の中核業務にAIを安定的に組み込むことは別の課題だからだ。

この差が表れやすいのが運用アーキテクチャだ。AIを全社運用に定着させるには、ガバナンスの効いたデータアクセス、信頼できるデータパイプライン、オブザーバビリティ、モデル評価、SLA、コスト管理、セキュリティ、データリネージ、継続的なフィードバックの仕組みが一体として機能する必要がある。

加えて、複数部門が共同利用でき、本番環境で継続的に監視できる共通基盤も欠かせない。国内ゲーム企業Kraftonの事例もその一つだ。Kraftonはデータ管理環境を統合し、Unity Catalogをベースに一貫したアクセス方針とデータガバナンス体制を整えた。

これにより、複数部門が大規模データを安全に共有・活用できる環境を構築した。AIを安定的に拡張するには、個別モデルだけでなく、複数の組織やAIプロジェクトが共通で使える信頼性の高いデータと、一貫したガバナンス体制が必要であることを示している。

共通基盤が不足すれば、エンジニアリング組織は新製品開発や顧客体験の改善に集中しにくくなる。データパイプラインの管理や、部門ごとに分散したガバナンスの調整に加え、似たようなシステムを重複して構築するため、時間とコストがかさむからだ。

その結果、本来はイノベーションに振り向けるべきリソースが、重複構築や保守に縛られることになる。

必要なのはAIの量ではなく運用の質

今回の調査は、こうした格差の原因を直接証明するものではない。ただ、AIプロジェクトの拡大ペースに対し、ガバナンス整備が追いついているか、複数部門や複数プロジェクトがデータとシステムを共通利用し、運用状況を継続的に監視できる基盤が十分かどうかは、改めて点検する必要がある。

経営層が問うべき論点は明確だ。自社はAIのための共通運用基盤を備えているのか。それとも個別のAIプロジェクトだけを増やし続けているのか。

解決策は、AIの実証実験を増やすことや、機械学習エンジニアを増員することだけではない。すでに得られている成果を、再現可能で、ガバナンスが効き、本番環境で安定稼働する仕組みに転換することが求められる。

出発点となるのは運用アーキテクチャの整備だ。データパイプラインとガバナンス、AIワークロード、モデル、エージェント、アプリケーションを単一の運用体系の中で有機的に結び付けなければならない。

セキュリティ、データリネージ、監視、性能測定も、各部門がその都度個別に構築するものではなく、複数部門で共同利用できる共通基盤として提供されるべきだ。

最終的にAIスケーリング格差を埋めるのは、最も多くのAI実験を進める企業ではない。AIを反復可能な運用基盤へと転換できる企業だ。デジタルネイティブ企業はすでに、どの業界よりもAI拡張を高い優先順位に置いている。今後はAIを既存事業に付け足していくのではなく、日常業務と中核的な意思決定プロセスに安定的に根付かせることが重要になる。

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