野菜の安定供給には、生産量を増やすだけでは不十分だ。栽培される野菜の種類や品種、さらに品種改良の基盤となる近縁野生種まで含めた多様性を守らなければ、栄養価が高く気候変動に強い野菜の選択肢が狭まりかねない――。そんな研究結果が示された。
12日付でGIGAZINEが紹介した研究によると、これまで野菜不足の要因としては生産量や価格、食文化が主に論じられてきた一方、野菜の多様性の保全と活用は相対的に注目されてこなかった。野菜はビタミン、ミネラル、食物繊維の主要な供給源だが、各国の平均摂取量は健康的な食生活で推奨される水準を約40%下回っているという。
研究では、食用植物の種だけでなく、同一種内の地域固有品種や伝統品種、さらに品種改良に活用できる遺伝的特性を持つ近縁野生種も対象に含めた。農業・園芸作物の辞典や国連食糧農業機関(FAO)の資料、世界野菜センターのリストに加え、サハラ以南アフリカ、南・東南アジア、パプアニューギニア、アンデス、メソアメリカ、アマゾン地域の資料を統合した結果、少なくとも1482種の野菜を確認した。地域で採集・利用されながら文献に載っていない野菜まで含めれば、実際の種類はさらに多い可能性があるとしている。
一方で、世界の生産と消費は一部の作物に集中している。レタス、タマネギ、トマトのように世界各地で広く栽培・消費される野菜がある半面、地域固有の野菜や品種は、市場の画一化や土地利用の変化によって栽培や消費の機会を失いつつある。研究チームが過去100年間の関連研究を検討したところ、全体の80%で品種または遺伝的多様性の減少が報告されていた。
近縁野生種を巡る状況も厳しい。FAOが主要野菜に分類する79種に関連する近縁野生種について、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストで保全状況を確認したところ、評価済みの種のうち約24%が絶滅の危機にあることが分かった。これは、今後の品種改良に必要な遺伝資源が細っていることを意味する。
研究チームは、地域野菜が畑や市場から姿を消せば、栽培方法の継承も難しくなるとみている。消費が減れば生産と流通はさらに縮小し、入手しにくくなる悪循環に陥る可能性がある。食卓が少数の野菜に偏れば、栄養価の高い野菜や地域の気候に適した野菜を選ぶ余地が狭まるほか、病害虫や干ばつ、高温に強い品種を開発する選択肢も限られる。
具体例として挙げたのが、アフリカで葉物野菜として食べられているスパイダープラントだ。栄養価が高く、気候変動への適応力もあるが、遺伝資源を保管するジーンバンクには地域品種がほとんど保存されていない。このため、品種改良に使える種子が限られ、大規模生産向けの改良品種の開発が難しいという。
カボチャも、干ばつや高温に強い野菜として紹介された。オレンジ色の果肉にはベータカロテンが、濃緑色の葉には微量栄養素が含まれ、ジーンバンクでも複数の品種が保全されている。ただ、近距離では別系統の花粉が混ざりやすく、各系統の遺伝的特性を保ったまま種子を増やすには、栽培区画を離して管理する必要がある。広い農地と追加の管理コストが必要になるため、結果として品種改良に使える種子量が不足するおそれがある。
もっとも研究チームは、野菜の種類を増やして食べることが、実際に野菜摂取量の増加や健康状態の改善につながるかどうかは、現時点では確認されていないとしている。野菜の多様性を保全する必要性は大きいものの、その効果の検証は今後の課題だ。
世界野菜センターのマールテン・ファン・ゾンネフェルト氏は「必要な野菜の多くは、現在も伝統品種や近縁野生種として残っている」とした上で、「気候変動が進む中で食生活を多様化するには、これらを適切に保全し、賢く活用することが急務だ」と述べた。今回の研究は、野菜を巡る課題を単なる増産の問題ではなく、種子保全と品種活用の問題として捉える必要があることを示している。