Appleがメモリ不足への対応策として検討していた中国製メモリチップの調達が、実現に向けて厳しさを増している。米国の対中規制を巡る不透明感に加え、中国メーカー側の供給能力への懸念も浮上しているためだ。
8月11日付のITメディア「9to5Mac」によると、Appleはメモリ供給の逼迫に備える選択肢の一つとして、中国のメモリメーカーであるCXMTとYMTCからの調達を検討してきた。
現時点で、両社との取引が直ちに違法とされているわけではない。ただ、米国防総省のいわゆるブラックリストに載る中国企業との取引は政治的なリスクを伴い、Appleの判断を難しくしている。
中国製メモリチップをiPhoneに採用した場合、米政府との関係で新たな問題が生じる可能性もある。連邦職員による当該端末の使用が制限されるとの見方も出ている。
Appleは6月、トランプ政権に対し、中国製メモリチップの購入許可を求めたと伝えられている。当時から承認の可能性は高くないとみられていたが、その後、実現性をさらに押し下げる要因が加わった。
一つは、米国の規制環境だ。CXMTやYMTCからの購入自体は直ちに違法ではないものの、米政府が今後、中国メモリ企業への規制を一段と強化する余地は残る。
そのためAppleにとっては、現時点で合法であるというだけでは、長期の供給契約に踏み切りにくい。iPhoneの中核部品を担うサプライチェーンに規制リスクの高い企業を組み込めば、政策変更に応じて調達計画の見直しを迫られる可能性があるためだ。
もう一つの課題は供給能力だ。CXMTがAppleの求める規模の発注に対応できるかどうかを疑問視する声が強まっている。Appleのメモリ調達は大量確保が前提となるだけに、中国メーカーに十分な生産能力がなければ、規制面の問題が解消しても実務上の代替調達先としては機能しにくい。
こうした事情から、Appleの中国製メモリ調達案は、米国の規制リスクと中国メーカーの生産能力という二つの制約に同時に直面している。
もともとこの案は、Appleのメモリ不足を補う限定的な代替策との見方が強かった。足元ではその実現可能性がさらに低下したとの分析も出ており、9to5Macも従来の「可能性が低い解決策」との評価を、「極めて可能性が低い」水準へと引き下げた。
Appleが中国メモリ企業の活用を検討した背景には、世界的なメモリ需給の逼迫がある。iPhoneを含む電子機器向け需要が増える一方、AIデータセンターを中心にメモリ需要も急増しており、主要メーカーの生産能力を巡る競争は激しさを増している。
Appleは、安定したメモリ供給網を確保しながら、コスト上昇も抑えなければならない局面にある。ただ、中国企業を調達先に組み込む場合には、米国の対中技術規制という地政学リスクを避けて通れない。
とりわけAppleのようにグローバル市場で事業を展開する企業は、部品価格や生産量だけでなく、政府規制やサプライチェーンの安定性まで含めて判断する必要がある。中国製メモリの調達が、単なる購買契約にとどまらず、米中の技術覇権争いと結び付いている理由でもある。
このためAppleは、中国企業以外の調達先の開拓や、既存サプライヤーとの契約拡大など、別の対応策を探る必要性が高まっている。
今後の焦点は、米政府がCXMTやYMTCを含む中国メモリ企業への規制をどの水準まで強化するのか、そしてAppleが増大するメモリ需要にどう対応するサプライチェーン戦略を打ち出すのかにある。現状では、中国製メモリの調達は、Appleにとって現実的な打開策とは言いにくくなっている。