Strategyがドル準備金を46億5000万ドルまで積み増し、その狙いに注目が集まっている。市場ではビットコイン価格下落への備えや追加購入の待機資金との見方もあったが、実際にはビットコイン保有を背景にした優先株などの発行を支える、独自の資金調達構造が中核にあるとの分析が出ている。
Bitcoin Magazineによると、Strategyのドル準備金は2週間前の37億5000万ドルから46億5000万ドルへと約9億ドル増加した。
この間、Strategyはビットコイン約7000枚を売却したとされる。市場では買い増し方針の修正との受け止めも出たが、今回の現金積み増しの焦点はビットコイン投資そのものではなく、信用力を伴う資金調達の維持にあるという。
Strategyは一般的なビットコイン保有企業と異なり、大規模なビットコイン資産を背景に、優先株に類する証券を発行して資金を調達している。こうした証券には、ドル建ての固定配当負担が伴う。
ビットコイン自体はキャッシュフローを生まない。一方で、Strategyのソフトウェア事業のキャッシュフローだけでは、現在の資本構造に伴う配当や各種金融コストを十分に賄いにくいとの見方が示されている。
このため、同社が積み上げるドル資金は単なる投資待機資金ではなく、優先株などの発行を支える準備資金としての意味合いが大きいとみられている。
現金を厚く持てば、優先株投資家の配当支払い能力に対する懸念は和らぐ。追加発行時の投資需要の確保につながるほか、中長期的には資金調達コストの低下を促す可能性もある。
信用格付けも、現金積み増しを促す要因の1つとされる。S&Pは2025年10月、Strategyに「B-」を付与し、ビットコイン保有への集中、脆弱なドル流動性、極めて弱いリスク調整後資本を主なリスク要因として挙げた。
Bitcoin Magazineは、S&Pの評価手法では市場変動性の高さから、ビットコインが資本基盤の十分な下支えとして認定されにくいと説明している。巨額のビットコインを保有していても、信用評価の観点では安定した流動性資産としてそのまま評価されにくいという意味だ。
もっとも、現金を厚く持つ戦略にはコストも伴う。例えば年10%配当の100ドル規模の優先株を発行し、3年分の配当原資をあらかじめ現金で確保した場合、実際にビットコイン購入などへ投じられる資金は70ドルに減る。毎年10ドルの配当コストを賄うには、この70ドルが約14.29%の収益を上げる必要がある。名目上の資本コストは10%でも、実投下資金ベースの要求収益率は42.9%高くなる計算だ。
ビットコインの高い価格変動性は、この負担をさらに重くする可能性がある。ある年に要求収益率を下回っても、優先株の配当義務は消えないためだ。準備資金が大きいほど、新たに調達した資金のうち実際にビットコイン購入へ回る比率も低下する。長期的にビットコイン投資の収益率が資本コストを上回れなければ、その差は最終的に普通株主の負担になり得る。
一方で、現金保有が常に非効率というわけではない。ビットコインが急落しても、現金準備があれば配当や利払いのために保有ビットコインを強制的に売却するリスクを抑えられる。証券価格が額面を下回った局面では、当該証券を割安に買い戻す原資にもなる。
実際、Strategyは7月下旬、STRCを額面ベースで2889万ドル分買い戻すため、2500万ドルを投じた。額面比のディスカウント率は約13.47%だった。
その後、ビットコイン売却で確保した1億860万ドルを使い、STRC115万株を追加で消却した。将来の配当負担を減らすと同時に、1株当たりの純ビットコイン価値の押し上げにつながる可能性があるという。
ただ、Strategyの現金積み上げ戦略を他のビットコイン保有企業にそのまま当てはめるのは難しいとの指摘もある。多くの企業にとって適正な現金規模は、恣意的な準備金目標ではなく、実際の事業運営に必要な資金を起点に判断すべきだという。
優先されるのは、給与や税金、債務返済、仕入れ先への支払い、短期の設備投資、営業キャッシュフローの変動への対応だ。継続的な売上が見込め、コスト構造が安定している企業であれば、比較的薄い現金バッファーでも運営できる。一方、景気敏感業種や資本集約型企業では、より厚い流動性の確保が求められる。
分析は、事業運営に必要な資金と適正な流動性バッファーを超える現金には、別の経済的な目的が必要だと結論付ける。そうでなければ、現金は収益を生まない一方で、他の投資機会を放棄する機会費用になり得るためだ。
余剰資本を保有する場合、企業は自社株買い、高コスト債務の返済、より高い利回りが見込める投資などと比較し、最も効率的な資金使途を選ぶ必要がある。
結局のところ、Strategyの大規模なドル準備金は、一般企業の現金管理とは性格が異なる。ビットコイン財務の上に大規模な信用発行ビジネスを重ねた独特の資本構造に加え、信用評価の過程でビットコインが十分な下支え資産として認められにくい現実が重なり、厚い現金準備の必要性が高まったとみられる。
逆に言えば、こうした信用発行構造を持たない大半のビットコイン保有企業にとって、運転資金と適正な流動性バッファーを超えて大規模なドル資金を積み上げる経済的な合理性は、相対的に大きくないとの指摘だ。